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敗北 -3-にしおりをはさみました!
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敗北 -3-
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木田が櫻井のことについて室井に話し始めた頃、櫻井は社長室で、社長の真正面、かなり深い角度で頭を下げていた。
櫻井が10秒以上していたその姿勢から頭を上げた時、お互いの力ない瞳が交叉した。
「俺は奴らのマネージャーを辞めます」
抑揚のない声で淡々と、櫻井はそう告げた。
「そのあと、お前はどうなる予定なの?」
社長の声は、落胆の色を隠そうともしていなかった。
「黒宮さんのマネージャーを務めさせていただきます」
「……そう」
社長は、長い溜息を吐き、顔の前で指を組んだ。
「武上から連絡が入った時点でダメだと思ってたよ」
社長は机の上のボトルキャップマスコットを1つ、指に摘まんでいじくり出した。社長の机周りのマスコットコレクションは、来るたびに増えている。
「本当に残念に思うよ。お前のことも、pmpのことも」
「pmpには適切なマネージャーを後任に決めるつもりです。引き継ぎを完了させるまでは、俺も仕事を続けます。武上さんからの仕事の引き継ぎは、俺たちの方で同時進行する予定です」
社長は櫻井の言葉に応える前に、瞳を暗くさせて櫻井を睨みつけた。
「その全部に俺は口を挟めないわけだ」
「黒宮さん側からの話についてはなんとも言えませんが、pmpの後任のマネージャーについては、社長の意見もいただきたいとは考えております」
「黒宮のマネージャーは、みんなそのキャラじゃないと務まらないの?」
ウンザリしたような声をあげて、社長は一瞬視線を外した。能面が張り付いたようだった櫻井の表情が、微かに震えた。
「俺があの人に似てると思いますか」
「いいや?違うよ、お前と武上は、ね」
社長は言葉の後で、また櫻井に意味ありげに視線を送った。しかしその一瞬後には、またジットリとした目に戻った。
「お前は決めてるの?pmpの次のマネージャー」
「現時点で一番薦めたいのは、玉谷さんです」
「あぁ、なるほどね。急ごしらえとしては悪くないかもね」
社長は何度か頷いた。
「ただ、pmpはお前がマネージャーだからここまで上手くいったところはある」
「…………」
櫻井は開きかけた唇を、グッと噛んでこらえた。
「これはお世辞じゃなくて俺の本心だよ、これからマネージャーがすり替わって……今のように行くかね」
「…………俺の方からも、玉谷さんには話をするつもりではありますが……」
「分かってるよ。最終的な人事決定は、社長様のお仕事だからね」
櫻井は社長の言葉を黙殺し、社長もそれについては何も言及しようとしなかった。
「やりますよ、人事任命、あなたがたのご進言通りにね」
「よろしくお願いします」
社長の自棄気味な言動には触れず、櫻井は一礼して背を向けた。しかし通路に続く扉に手を掛ける直前、櫻井はピタリと止まって、また社長の方を向いた。
「あの日の忠告」
陰気そうな眼差しが櫻井に注がれた。
「従わなかったこと、本当に後悔しています。……申し訳ありません」
再びのお辞儀。社長は軽く鼻を鳴らして、櫻井のその姿勢から目を背けた。
「いいよ。そんな言葉、今更」
「……失礼します」
部屋を後にした櫻井の背後で、扉がバタンと音を立てて閉まった。
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