アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
✽日本一高い建物から見たいもの✽ 7にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
✽日本一高い建物から見たいもの✽ 7
-
「3畳程の場所に人がみっちり詰められてな、8階まで1分ほどで上がるんだが、上がる時も止まる時も妙な動きをするから、皆がおっかなびっくりした顔で、おお!と声を上げていた」
1階から8階部分の閣内中央に設置されたつるべ式の日本で初めての電動エレベーターは、内部の壁際には布団を敷いた腰掛けがあって、一度に15人から20人を乗せていた。
すし詰め状態と故障の噂を聞いていた故、近衛は乗ることを渋ったが、浅野に無理やり乗せられた。
「1分とは凄いですね!私も乗ってみたかったです」
階段を下りながら話しをしていると、ははと笑う近衛の声が響き渡り、那由多はぱっと近衛を見上げた。
「那由多は乗ったらきっと怯えたよ。さっきみたいに私の背広を掴んでな!」
那由多は意外と臆病だ。エレベーターのあの動きを体験すればきっとびくびくしたに違いない。そんな顔も見てみたかった。
言われた那由多はというとふて腐れた。あそこからの高さを見れば誰でも恐れ慄くはず。そんな事を思うていたら「また動きだしても私はあれは勘弁だ」という言葉を聞き、那由多は口を尖らせたまま近衛に告げた。
「ではエレベーターが動き出したら上まで篤忠様とは別々ですね。私はエレベーターで参ります」
「ん?拗ねたか?あれが動き出しても那由多は私と共に階段だ。私の行くところなら何処でも共をするとさっき約束したであろう?だから二人一緒だ」
そう言うて顔を覗き込んでくる近衛にぐうの音もでない。自分で言うたんだ、仕方あるまいと那由多は笑うて戯れた。
「ではその時は篤忠様にもエレベーターに乗って頂きます。背広を掴ませて頂かないといけませんから」
「はははっ、じゃあ昔の様にチョッキを渡しておくよ」
「あ!二人一緒だと仰ったではありませんか!」
「はははははっ、」
薄暗い階段の道中も近衛と一緒だと楽しかった。下の階を流し見て凌雲閣からでると、二人で煉瓦作りの仲見世をぶらぶら見て周り、天ぷら屋に入って天丼を食べた。ごま油の香りとさっぱりした甘さの飯に舌鼓を打ち、その後、軽業や曲芸を共に見た。何をしていても楽しゅうて会話は尽きない。同じ物を見て同じ物を食べ、同じ家に帰る。それが私にはとても贅沢に思えた。
帰りの馬車鉄道に乗る時、近衛がくすくすと笑い出し、はてと小首を傾げると「草履は履いたままで良いぞ」と言われ気恥ずかしゅうてへらりと笑うて誤魔化した。
行きの馬車鉄道に乗る時、履き物は持って上がるのですか?と問うたからだ。
「今日は楽しゅう御座いました。ふふ、驚きの連続で、」
「私も楽しかった。帰ったら一番見たかったものをもっと近くで見ようと思う。付き合うてくれるか?」
柔和な笑みでそう問われれば断る事など出来ようものか。私ももっと近しい距離で近衛をみたいと、笑うて「はい、是非に」とお答えした。
了
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
7 / 48