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君がいない未来にしおりをはさみました!
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君がいない未来
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永良(ながら)の顎(あご)に力が籠る。目も伏せて、眉間に皺も寄せて。
嫌がってるの? それとも困ってるの?
「お前は……っ」
お前は? 原因は僕?
「だああぁあああああ!!!」
「っ!!?」
永良が大声を上げた。耳がキンキンする。
「~~っ、何? いきなり――」
「俺はお前を『ざまあ』する男だ!!」
「えっ? あっ、うん。そうだね」
戸惑いが力を奪う。永良はその隙を逃さずに僕の手を払いのけた。
「だっ、だからお前とは馴れ合わねえ!」
それが君の本心なの?
だったら何で、何でそんな悲しそうな顔をしているの?
「永良――」
「~~っ、じゃあな!」
「あっ! ちょっと」
永良が駆け出した。慌てて後を追う。早い。全速力で走っているのにまるで追いつけない。それどころかどんどん引き離されていく。
「待って!!」
『ドアが閉まります。ご注意ください』
永良は電車に駆け込んだ。電車が動き出す。僕だけがホームに取り残された。
「はぁ……はぁ……無理……っ」
膝に手を突く。肩が上下に揺れてる。呼吸も乱れたままだ。
「ゴホッ! ゴホッ!」
しまいには咽(む)せ出した。酷くみっともない姿だ。無様にも程がある。
「ハァ……っ、ハァ……くっ……何なの……っ」
あの分だと100m11秒台もあり得そうだ。そのぐらいとんでもない速さだった。
因みに僕は100m15秒5。平均よりも遅めだ。
「君、取り組む競技間違えてない?」
陸上に行っていたら、間違いなくスター選手になっていただろう。
「間違え? ……っ!」
背筋が凍った。まさか。そんなわけないと内心で否定する。けど、その声はどんどん小さくなっていく。
「スカウトなんてされてないよね?」
永良はまだ15歳。中学3年生だ。あのポテンシャルならきっと間に合う。
競技によっては熱心に勧誘してくるところもあるかもしれない。それこそ陸上とか。
「まさかそれで……?」
それで消極的なの? 僕と仲を深めることに。次がもう決まっているから。
約束を果たしたら、あるいは切りの良いところで消えるつもりなの?
「~~っ、そんなの絶対に許さないから」
僕は近くにあったベンチに乱暴に腰かけた。そのまま水筒を取り出してがぶ飲みする。
「……………………っ、嫌だからね」
永良がいなきゃ意味がない。……意味がない。…………何で?
「……何でだ?」
僕は顎に手をあてて思案し始めた。
Q1:永良にこだわり続ける理由は?
A1:僕にとって永良=主人公だから。ギラギラな僕を誰よりも純粋に求めてくれている人だから。
Q2:『ざまあ』された後は? ギラギラな僕を取り戻した後は?
A2:永良と――。
「仲良く……なりたい」
だからか。だから、永良がいなきゃ意味がないんだ。見返りを永良に。友愛を求めているから。
「本当、勝手だな」
漸(ようや)く理解した。いや、認めたと言った方がいいのかもしれない。
まずは一歩。
問題はここからだ。
「……どうしよう」
永良が転向を希望したら。その時はやっぱり止めに入ってしまうのかな。行かないでって駄々を捏(こ)ねてしまうのかな。
「……付いて行けたらいいのに」
そんなの無理に決まってる。ただ思うだけ。願望だ。
ははっ、ダメだ。考えが纏まらなくなってきた。この件は一旦置こう。
誰もいない地下鉄のホームで溜息をついた。外気に触れて徐々に冷たくなっていく。心も。体も。全部。全部。
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