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遠くからにしおりをはさみました!
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遠くから
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あ、また怒られてる……。
エターナルでの仕事に慣れてきた頃、夕には密かな日課ができた。それは、事ある毎に黒川を目で追いかけ、どんな様子か見ることだ。
無論、同じ社員として働いているわけではないため、見続けることには限界があったが、意識して見てみると気付くことも結構あった。
そして最近気付いたのは、頻繁に怒られる黒川が、少しずつ凹んだ様子を見せなくなってきたことだ。
先輩社員に怒られた後、肩を落とすのではなく、その社員の言葉に食いつき、教えを請い、礼を言う場面を最初に見た時は感心した。
自分だったらきっとそこまでせずに、謝って済ませるだけだろうから。
じっと見つめていると、黒川が先輩社員との会話を終え、こちらを振り返った。
「……っ」
息を呑み、視線が重なるギリギリのところで逸して、掃除に没頭しているふりをする。
だが、黒川はそんな夕の様子を知ってか知らずか、必ず声をかけてくる。
「お疲れ様です。いつもありがとうございます」
「……っ、あ、ああ……お疲れ様……」
笑顔が、心臓に悪い。
「今度、掃除のコツを教えてくれませんか?自分の家のお風呂場の汚れがしつこくて……」
「それなら……」
「え、そんな方法あるんですね。今度試してみようかな」
黒川は会話が上手い。口下手な夕でさえ、するすると会話を続けてしまう。
だが、それは単に黒川の会話術だけではないと、薄々気付いてきていた。
話をしながら、黒川の目に吸い込まれそうになったり、黒川がよく笑うのは初めから変わらないのに、自分との会話が楽しいからよく笑うのだと勘違いしそうになる。
「それで、月城さんは……」
黒川が話を続けようとした時、あまりにじっと見つめていたせいか、互いの視線が絡まり合った。
「……」
「……」
長い間見つめ合いながら互いに黙り込んでいた時、他の社員が黒川を呼ぶ声がした。
「あ、はーい!今行きます!」
それに返事をした黒川は、最後に夕に笑顔を向けて歩いて行った。
徐々に遠くなる背中を見つめながら、暴れている自分の心音を抑えようと、胸に手を当てた。
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