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「お前ネガティブすぎるだろ。同じ学校で同じクラスなんだぜ?諦めるにはまだ早すぎるし、諦める位なら話し掛けろよ」
溜め息を吐きながら、和成によって厳しい一喝を受ける晴人。
諦めたら最後、そう言っている気がした。そう、今の自分はまだ何もしていない。
熱いその言葉が晴人の胸に響く。
「嫌われてない、好かれてもない。まだ何も始まっちゃ居ないだろ?当たって砕けろまでは言わないけどさ、本当に好きならそれぐらいの勇気を持って挑めよ」
「かず……っ、うん…」
言い方は多少厳しいかもしれないが、自分を思っての事だろう。何て優しくて素敵な親友を持ったんだろうと、嬉しさの余り少し涙ぐむ。
滝澤に対するこの気持ちを活かせるのは自分だけなのだ。何もしないまま心の蕾を枯れさせたくはない。想い続けたこの気持ちは誰にも負けないだろう。
今は自分が出来る精一杯の事をしよう、立ち上がる勇気も大事なんだ、そう思えた。
「…オレ、ちょっと行ってくる!」
この気持ちが消えないうちに行動に起こさなければ、次はないような気がして。
心を落ち着かせるように深呼吸すれば、先ほどの覇気のない自分とは違う気合いの入ったた声で言いはなった。
「ま、砕けても俺が慰めてやるよ。頑張って来いよ!」
冗談混じりにそう言えば、晴人の背中を叩く和成。背中を押されて晴人は走っていく。
そう、目的はただ一人。
教室から校門へと出てみるも、二人で話して いた時間が長かった為か見当たらない滝澤。ストーカーの如く見惚れ続けていた自分の勘を屈してただそれを信じて追いかけていく。
勿論、次の言葉なんて考えていない。 ストーカーの如く見惚れていた自分の勘を信じて走って追いかけていく。
暫くして見付けた見慣れた後ろ姿。
普段の自分ならこっそりと伺って満足して帰るだろうが、しかし今日の晴人は何時もとは違うのだ。
見失ってしまわないうちに勢いに任せて呼び止める。
「滝澤くん!」
助けて貰ったときに呼んだ名前…一ヶ月掛かったがやっと呼べることが出来た。
小さな事かもしれないが、晴人にとってはとても大きな一歩。
大きな声で呼んだお陰か、振り返る滝澤。
教室に居たときよりも明らかに近距離に居る彼に、どくどくと脈打ち、心臓が悲鳴をあげる。
走った為に酸素不足の身体は息が切れており、思いっきり空気を吸い込んだ。
そして勇気を振り絞って会話を続ける。
「…ごめん、急に呼び止めたりして」
呼ばれた主へと視線を送る滝澤の顔は何処か面倒臭そうで、鬱陶しいものを見るようで怖かった。
まさに一匹狼。
分かっていたつもりだったが、怯んでしまう。
「何、…用事でも有るわけ?」
冷たく突き放すように言われた言葉。
和成によって押された背中だったが、それをうち壊すように自信を吸いとられていく。
冷たい眼差しが鋭く晴人を射た。
「えっと…そのさ、」
言いたい事は一つ、お礼の言葉。
しかし、言葉が詰まり言い出せない。
「あのさ、悪いけど…用がないなら呼び止めないでくれる?」
言えないで居る晴人に痺れを切らしたのか、再び帰路へと歩き出そうする滝澤。
折角の勇気も此処で終わってしまう…それだけは嫌だった。
「待って!…ただ、滝澤君にお礼が言いたくて」
自分の目の前から居なくなろうとする滝澤。咄嗟に細くて長いその手を掴んだ。
後になってきっと後悔するだろう、自分がこんなに大胆な事をするなんて、と。
手を捕まれた滝澤は、流石にそのまま歩く訳にはいかなかったのか、歩こうとするその足を止めて晴人の言葉に耳を貸す。
「何の事?てか、誰かを助けた覚えも無いんだけど。…それよりその手、何時まで掴んでるつもり?」
冷淡と告げる一番聞きたくなかった言葉。
頭を鈍器で殴られたような衝撃が晴人を襲う。
ショックの余り力の抜け落ちた手は自然と掴んでいた滝澤の手を解放する。
「あ…ごめ、ん」
「用はそれだけ?…じゃあ、僕行くから」
謝る晴人の声を聞いてか、一声掛けて立ち去る滝澤。
他に言い分はあったのかも知れない。
しかし、今、此処で言ったところで思い出してくれる可能性は無いに等しい。
小さくなる背中を遠目に見続ける晴人。
溢れる涙を堪えようと我慢する今の自分は、酷く惨めだった。
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