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彼の家に行きました。にしおりをはさみました!
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彼の家に行きました。
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そして日が変わり今、佐藤くんの家の目の前にいる。服装はジャージ。そろそろバチが当たってもおかしくない。昨日のパーカーには耳が付いている失態を犯してしまったので、入念に隅から隅まで見て、何の変哲もないジャージだということを確認してきた。
人様の家にジャージは有り得ない、って思われたらどうしよう。まぁけど着てるだけマシだよな。
インターホンを鳴らす習慣が無いからか酷く緊張する。震える手を叩き、気合を入れインターホンを押す。
『ピンポーン』
この待っている間が何よりも気まずい。どんな顔で待てば良いんだ、どこを見てれば良いんだ、痛くなる腹を擦りながら返答を待つ。
『あ、先輩！今出ます！』
「はい、お願い、します」
謎に緊張して敬語になってしまう。面と向かっていないとこんなにも身構えてしまうものなのか。
「来てくれてありがとうございます」
「いやこちらこそ。」
「とりあえず入ってください、なんか緊張するな」
目を逸らして照れ笑いをする佐藤くんの顔は珍しくて、思わず俺も目を逸らしてしまう。
佐藤くんの部屋まで案内され、一息つく。
家の中は広くて綺麗で、明るかった。
人が生活している、一言で言えばそんな感じで。
家に帰ると飯を作ってくれていて、洗濯を出すのが遅かったら怒ってくれるようなお母さんに、
生活費を稼いでくれて、時には体を張って家族を守り、休みの日には一緒にキャッチボールに行くようなお父さんがいて、
自分を慕い尊敬してくれる、けど友達より何でも言い合える兄弟姉妹がいる。
俺がずっと欲しかった、いや、憧れていたそんな温かい家庭がここにはあるんだと思い、目頭が熱くなる。涙では無い、心の汗だ。
「先輩っ、どうしたんですか、泣いて、」
だから汗だっつってんだろ。
俺とこいつは違う。学校での立ち位置も、容姿も性格も、家庭環境ですら天と地の差だ。
分かり合えない、理解し合えない。
それでも、俺の事を伝えたかった。理解してもらわなくていい。ただ、拒絶されなければ。
それも含めて俺の人生だって、受け入れて欲しい。付き合って数日の男にそんなことを求めるなんて重いにも程がある。が、佐藤くんなら大丈夫なんじゃないかな、そんな淡い希望があった。
「佐藤君、俺の家庭とかのこと、話すな。
付き合って少しの奴にこんなこと言われても重いかもしれないけど、
どんどんお前のこと好きになって、その時打ち明けて拒否されるよりは、早い方が傷も浅いかと思って。」
これで引かれたら、そこまでだったってことだ。
俺の前置きが思ったよりも真剣なせいか、佐藤くんは少し身構えた、強ばった顔でこちらを見る。
そういや佐藤くんってエロ本とか持ってるのかな。最近は全部スマホで済むもんな。
意外と教師モノとか好きそう。メガネとタイトなスカート好きそう。偏見だけど。
「先輩なんか変なこと考えてるでしょ。
いいから、早く教えてくださいよ」
佐藤くんに急かされ、俺は自分のことを話していく。
親が離婚したこと、そして再婚したこと。
再婚相手にも実の親にも俺の存在を受け入れてもらえなかったこと。
今は一人暮らしをしていて金は毎月振り込まれてること。
誰からも愛されたことがないこと。
全部話した。きっと同情するだろう。
でも、それだけだ。
どんなに好きでも所詮は他人。こんな重い話聞かされても迷惑なだけだ。解決策なんて出やしないし、誰も得しないのだ。
それでも、俺は佐藤くんに話してしまった。
「でも、誰からも愛されたことがないって違いませんか」
「ん？」
「だって、俺先輩のこと愛してますから」
何処で覚えてくるのこの人。そういう塾とかあるの？習い事？
愛してますからとか、人生で言う機会そうそうない。
「佐藤君って何でこんな優しいの？本当にさ、駄目なんだよ、こんなに優しくされたら、」
優しくされた分だけ虚しくなる。
「誰にでも優しいわけじゃないよ。先輩だから優しくしたい。先輩だから受け入れてあげたいの。」
本当に何でこんな男が俺に告白なんかしてきたんだ。まだ疑ってる。
というか本当だったとしても趣味が悪すぎる。
「先輩が親に甘えれなかったんなら、その分俺が甘やかしてあげるし、
愛してもらえなかったのならその分俺が愛してあげるよ。
だからさ、そんなに悲しい顔はしないでください。先輩は、笑顔が一番可愛いんだから。｣
「別に悲しい顔とか、してない、てか可愛くないし」
「ううん、可愛いよ。
俺知ってるもん。先輩が可愛いのも、優しいのも知ってる。だから俺、先輩のことが好き。
分からないなら何回でも言ってあげる。自信になるまで俺が伝える。」
覆い隠す手に、そっと触れられる。
そこで俺はキャパオーバー。
受け答えする気にもなれず、その日はずっと上の空になってしまった。
「本当に送っていかなくていいんですか？」
「お前と一緒だと、女の子が集まってくるからな、」
その日 家に帰ってから、一つ気付いた。
この関係っていつまで続くんだろう。
俺が告白されて１週間程。早く答えを出さないと、相手にも失礼だ。
そもそも付き合うって何をするんだ。分かりきっているが、趣味も全く合わないし。
まぁ今はそんなこと考えても仕方が無い。
明日その事について話そうと決め、俺は布団に入って思考を止めた。
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