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希望を信じてにしおりをはさみました!
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希望を信じて
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ラズは店主の許可も得ずに、陶器のカップをひょいと手に取ってしまった。
「へえ、ちゃっちい作りだが必要十分って感じだな」
「おいアンタ、うちの商品を勝手に触るな!」
ハゲの店主はラズの手から陶器の器を取り返した。ラズは長い黒髪を揺らし屈託なく笑う。
「すまん、興味があったんだ」
「買いたいなら開店まで待ってろ」
「金はない」
「なんだ、冷やかしなら帰れ……ん? サーシェじゃないか」
ああ、気づかれてしまった。引きつった笑みを浮かべる。
「お久しぶりです」
「おう。修行は進んでるのか?」
「はい、無事に魔法使いになりました」
一般人には、サーシェが五級であろうが一級であろうが見分けはつかない。魔法使いと言えば、立派だと思ってもらえる。
「やっとか! よかったなあ! いやあ、俺はやり遂げると信じてたぞ。なんせ大魔法使い様の血を引いているんだ、きっとアンタも立派な魔法使いになる!」
思いきり背中を叩かれてよろけた拍子に、フードが脱げてしまう。周囲から視線が集まるのを感じて、黄緑色の髪を隠すように深くフードを被りなおした。
「あはは……あの、もう行きますね。冷やかしてすみませんでした」
「いいってことよ。今後は師匠の代わりに、アンタがうちに商品を卸してくれるんだろう?」
グッと言葉に詰まった。もう在庫は底をつきかけている。どう頑張っても商人が望むような量の品は、サーシェには作れそうにない。
でも大丈夫だ、どうにかなる、どうにかする。だって、サーシェは悪魔を召喚できたのだから。
「……精一杯頑張ります」
「ああ、期待してるぜ」
ラズの手を引き、逃げるようにして広場を抜け出した。ひそひそと噂されるのが、嫌でも耳に入ってきてしまう。
「あの子、大魔法使い様のお子よね」
「間違いないわ、あんな特徴的な髪色の子は他にいないもの」
「魔法使いになれたのね。きっとご両親も喜んでいらっしゃるわ」
ほとんど小走りで坂道を駆け降りた。人のいない公園の中で立ち止まる。
「……っはあ、はあ……」
心臓が痛いくらいに脈打っている。胸を押さえて息を整えるサーシェを、ラズは興味深げに見守っていた。
「サーシェの親も魔法使いなのか。なあ、会わせろよ。ひよっこのお前よりいい魔力を持っていそうじゃないか」
人の気も知らないで。ラズを睨みつけながら言ってやった。
「無理だよ。父さんも母さんも、もういない。僕が三歳の頃に、二人とも魔法使いとして戦地へ召集されて命を落とした」
「なんだ、がっかりだ。人間はすぐ死ぬよな」
「……!」
思わず怒鳴りつけそうになって、燃え上がる炎を腹の底へと押し込んだ。ラズの機嫌を損ねてはいけない、願いを叶えてもらえなくなる。
白いアネモネは公園の花壇にもふんだんに咲いていた。風に揺れる花を見ながら深呼吸を繰り返し、平常心を取り戻そうと試みる。
(母さんが好きだった花……花言葉は、希望。希望があると信じて努力すれば、いつかはできるようになる……)
本当だろうか。サーシェがいくら努力を重ねても、魔力はちっぽけなまま。かろうじて五級魔法使いになれる魔力量にしか成長しなかった。
(いや、それでも。僕は悪魔を呼べたんだ。僕に叶えられない願いは、彼が叶えてくれるはず)
サーシェは唇を引き結び、ラズを見上げた。
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