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理由
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「お疲れ様でした!」
店内に残る店長と高田と、俺と交代で入った中山さんに声をかけ、足早に店から飛び出した。
キョロキョロと見回せば壁に背を預けてケータイをいじっているイチヤさんの姿があった。
「イチヤさんっ!」
パタパタと走り寄れば、俺に気付いたイチヤさんはケータイをポケットに仕舞うと、相変わらずな優しい笑顔で俺を迎えてくれた。
「お疲れさん」
「すいません、お待たせしました」
「そんな待ってねぇよ。思ってたより早いくらいだ」
イチヤさんはもう一回お疲れって言ってくれて、またもや俺の髪をくしゃくしゃと乱した。
3日前に会った時間が今日よりもだいぶ遅かったからそう思っているのかな。
「いつもはこれくらいの時間ですよ」
そう言うと、何となく安心したような感じで、そうかってイチヤさんは笑った。
これってあれかな。心配、してくれたんだろうか。
なんて。
ひとりで考えていればカーッと頬が熱くなったのがわかった。
良かった!逆光で!
そんな俺には気付いていないだろうイチヤさんはぽんぽんと俺の頭を撫でた。
「帰るか」
「あっはいっ」
歩き出したイチヤさんを追う。
俺が隣に来るのを確認したイチヤさんは柔らかく笑った。
この間みたくまた心臓が激しく鳴り出した。
どうやら俺はこの人のこの表情にめっぽう弱いらしい。
やっぱり謎だ。
「稜太、こっから歩きだと遠くないか」
「あ、普段は自転車なんですけど壊れちゃって」
いや。壊されたというのが正しいかな。
免許取りたての兄ちゃんが車庫に車を入れる時に自転車に気付かず、そのままグシャッと。
さすがにそれは言わないけど。
「だからしばらく歩きなんです」
「ふーん。壊れたままでもいいけどな。送ってやれるし」
「えっ?」
思ってもみなかったイチヤさんの発言にまた一気に顔が真っ赤になった。
イチヤさんは悪戯する子どもみたいに笑ってる。
「かかかかかかからかわないでくださいっっ」
「からかってねぇよ」
やっぱりちょっと悪戯な表情。
そんな顔もイケメンとかずるい・・・
「じゃなくてっ!!」
「どーした?」
「・・・気にしないでください」
声に出てたのか(泣)
恥ずかしすぎる・・・
笑いを堪えるイチヤさんに余計に恥ずかしくなった。
イチヤさんが少し涙目になってたことには、この際気付かなかったことにしよう。うん。
ていうかいっそ笑ってくれた方が、、、
恥ずかしくて顔を俯きがちに歩いていると、あることに気付いた。
横を歩くイチヤさんに視線を送ればすぐに気付いてくれてどうした?って聞いてくれた。
イチヤさんはこうやって応えてくれるから話しやすいんだと思う。
何て言うんだろ。
察してくれるって言うのかな。
「イチヤさんってここの近くに住んでるんですか?」
そうそう。これが気になったんだ。
だってさ、この間もあの公園にいたし、送ってくれたし、しかも今日も一緒に帰ろうとしてるんだもん。
ていうか近くだったら嬉しいなって思ったりして。言えないけど。
「いや、近くはないな」
「え、」
「こっからだと電車で15分ってとこか」
そう言ってイチヤさんはうんうんって一人で頷いてた。
「ええええええええ??」
「ちょ、稜太うるさい」
ちょっと(?)びっくりしてしまった俺は心の声をだだ漏れにしてしまった。
しーっと言ってイチヤさんが人差し指を立てて俺の唇に押し当てた。
これは予想外だ。
けっこう近いのかと思って期待してたのに。
かなり残念に思う自分がいた。
ていうかイチヤさんが一瞬だけ触れた唇が熱い。
何これ、めっちゃ熱い。
思わず口を手で覆った。
「す、すいません・・・」
口を隠す手はそのままに、もごもごと謝るとイチヤさんはよしよしと頭を撫でてきた。
とりあえずされるがままの俺だったけど、忘れてはいない。
飽きずに俺を撫でてるイチヤさんを視線だけで見上げる。
あ、上目遣いになるのは不可抗力です気にしないで。だってイチヤさん背高いんだもん。
「・・・イチヤさんお散歩ですか?」
そう聞くと、イチヤさんはブッと吹き出した。
「ここの近くにフジんちがあるんだ。あ、フジってこの間一緒にいたヤツな」
クククと笑いながら目には涙を溜めているイチヤさん。
失礼な。一体何が面白いんだろう。
フジさんと聞いて甘いマスクなイケメンを思い出した。
あの人近所なんだ。でもうちのコンビニで見たことないかも。
「あれ?そう言えば今日フジさん一緒じゃないですね」
「人の買い物に付き合うのはめんどくせえらしい」
そう言って苦笑するイチヤさんに俺も自然と笑みがこぼれた。
ほんとに不思議な人だと思った。表情とか雰囲気とか。何でこんなに優しいんだろう。
「イチヤさん」
「ん?」
「どうしてあの時俺を助けてくれたんですか?」
自然と出てきた言葉だった。
理由なんかないかもしれない。でも何故か聞きたくなったんだ。
じっとイチヤさんを見つめれば、イチヤさんは口元を緩めて俺の髪を撫でた。
「助けたかったから」
「・・・・・・・」
「あとは内緒な」
ふふっとまたもや悪戯な笑顔。
「え?え?」
全く意味がわからない。
あとはって何?
内緒って何?
そこにどんな意味が、理由があるんだろう。
それからどんなに聞いても結局イチヤさんは教えてくれなかった。
うーん。
ただ興味本位で聞きたかったその理由は、変に気になるものへと変わってしまって。
余計にイチヤさんが俺の脳内を占拠したのは言うまでもない。
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