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聞きたかったこと。にしおりをはさみました!
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聞きたかったこと。
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壱也さんに聞きたいことがいっぱいある。
何から聞こう。
そんなことを考えながらキッチンのカウンターの向こう側で紫煙をくゆらす壱也さんの横顔を見ていた。
タバコを吸ってる姿も様になっていて、やっぱりかっこいいなぁって思って一人頬を赤く染めちゃったりして。
テーブルに灰皿が置いてあるのにどうしてだろうと思ったけど、たぶん俺に気を遣ったんじゃないかなと思った。
どこまでも優しい壱也さんに胸がきゅうんってなったのは言うまでもない。
じっと視線を送っていれば、不意に壱也さんがこっちを見て優しく口元に弧を描いた。
「どうした?」
見てたのがバレてた。
恥ずかしさに目を泳がせていれば、タバコを消した壱也さんが戻ってくる。
壱也さんが隣に腰を下ろしてソファが沈んで、また心臓がドキドキと鳴り出した。
でもそんなこと知らない壱也さんはいつもするみたいに手を伸ばして俺の髪を優しく撫でた。
「なんか言いたそうな顔してるな」
「・・・・・」
手が離れていったかと思うと、ふっと壱也さんが笑った。
またバレた。
俺ってそんなに顔に出るんだろうか。
でも、そのおかげできっかけが掴めた俺はおずおずと口を開いた。
「え、と・・・壱也さん」
「ん?」
「あの、どうして同じ学校だって、教えてくれなかったんですか」
一番聞きたかったこと。
初めて会った時も、バイトの後送ってもらった時も。
俺は制服を着てた。
だから見ればすぐわかるのに、壱也さんは何も言わなかった。
きっとあの時屋上に行かなければ、俺はずっと知らないままだったかもしれない。
こればっかりはマコトに感謝だ。
じっと見つめていれば、壱也さんはちょっと困ったように笑った。
「知られたくなかったんだよ」
「・・・・・」
「聞いたことあるだろ、噂くらい」
たぶん不良のボス『本山壱也』の噂のことを言ってるんだと思う。
高校入学と同時に上級生を負かしてボスの座に君臨したとか、喧嘩で負け無しだとか、近辺の高校まで支配してるとか、先生までも言いなりだとか、ボスの歩いた後には屍が転がるだとか、ヤクザと関わりがあるとか、まだまだいっぱいあるけど、そういった噂のことだろう。
どこまで本当かどうかわからないけど、俺の知ってる壱也さんからはどれも想像出来ない。
でも、たぶん入学早々ボスの座に君臨したって噂は本当だと思う。
黙っていれば、肯定だと受け取ったのか苦笑した壱也さんが再度口を開いた。
「今日お前が屋上に来た時は正直焦った。まさかお前が来るとか思ってなかったし」
それは俺だって。
まさかあんなところに壱也さんがいるなんて思ってなかったですほんとに。
口には出さないけど。
「稜太、お前不良苦手だろ」
「・・・はい」
「だったら尚更怖がって俺に寄り付かなくなる」
「・・・・・」
「そう思ったから、知られたくなかったし、言わなかったんだよ」
「あ、あのっ」
勝手に口が動いていた。
だって自嘲気味に笑う壱也さんに、勝手に決めつけてる壱也さんに、腹が立ってしまったんだ。
「さ、さっきも言ったけど、俺っ、壱也さんのこと、怖いとか、思ってません!寄り付かなくなるとか、勝手に決めつけないでくださいっ」
心の内を吐露したのに、ムカムカが落ち着かない。
壱也さんは面食らったような顔をしてたけどそんなの知らない。
壱也さんが言ってることは、まるで俺の知ってる壱也さんを否定してるみたいで。
俺の中に芽生えた気持ちさえ否定してるように聞こえたんだ。
肩を震わせたまま、驚いた表情の壱也さんをじっと視れば、ふと壱也さんの表情が柔らかくなる。
その手が頬に伸びてきて、いつかの時みたいに目元をそっと撫でられた。
「悪い。・・・だから泣くなよ」
「、え?」
言われて自分の頬に手を伸ばす。
指先が濡れる感覚に、いつの間にか泣いていたことに気付いた。
「泣くなよ」
「ッ、ぅ・・・ッだって、いちやさ、がっ、」
「・・・ごめん」
優しく頬を撫でる壱也さんの、困ったような顔を見たら堰を切ったように涙腺が崩壊した。
やっぱり壱也さんは俺の知ってる壱也さんで。
こんなに優しいのに怖いわけない。
離れたいと思うわけない。
好きなのかもって思ってた気持ちは、もう曖昧なものじゃなくて、確かに俺の胸にある。
「稜太、」
ぐっと引き寄せられて、壱也さんの腕に抱き込まれる。
壱也さんの鼓動も匂いもこんなに近くに感じるのは初めてで、嬉しくて切なくて、心臓がきゅううっと締め付けられる。
尚更、溢れ出る涙は止まらなくて。
縋り付くみたいに壱也さんの胸に顔を埋めた。
ようやく涙が止まったのは10分以上経ってから。
今はだいぶ落ち着いて、涙は乾いてしまっていた。
でもどうしてか、壱也さんは俺を抱きしめたまま離してくれなくて、心臓がこれ以上ない程に暴れまくっている。
恥ずかし過ぎて今度は違う涙が溢れそうだった。
どうしようとグルグルと考えていれば、そう言えば、と、どうでもいい事を思い出す。
「、壱也さん」
「ん?」
「俺、壱也さんのこと大学生だって思い込んでました」
ブッと壱也さんが吹き出した。
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