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18歳以上ですか?
無意識。にしおりをはさみました!
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無意識。
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バイトが終わって店を出ればいつものように壱也さんがバイクに凭れて待っていた。
「お、お待たせしました」
「お疲れ」
俺を視界にとらえて微笑む壱也さんに、ちょっとほっとした自分がいた。
近寄れば、またいつものようにぽんぽんと頭を撫でられる。
いつもされてることなのに、何でか胸が苦しくなった。
やっぱり壱也さんは壱也さんで。
あの時、どうしてこの人に怯えてしまったのか。
本当に自分が情けなくて仕方ない。
あの時、壱也さんに言ったじゃないか。
怖くなんかないって。
今日は少し話をしたいからって言われて、壱也さんと初めて会った公園に寄り道をした。
誰もいないことに無意識にほっと息が漏れた。
公園の端っこにあるベンチに腰を下ろして、ちょっと離れたところで自販機で飲み物を買っている壱也さんの背中を見つめる。
あの夜、不良に絡まれたこともそんな前の話じゃないのに、何だか懐かしく感じた。
話ってなんだろう。
なんて考えてたら、壱也さんが缶ジュースをふたつ持って戻ってきた。
「ん、」
「ありがとうございます」
差し出された缶ジュースを受け取ってお礼を言うと、相変わらず優しく口元を崩す壱也さんに今更ながらドキっと心臓が跳ねる。
「悪いなバイト後なのに」
「全然大丈夫です」
もらったジュースをちびちびと飲みながら、隣に腰を下ろした壱也さんの横顔を見る。
ずっと気になっていたけど、街灯に照らされた顔に見える傷が痛々しい。
放課後見た時より酷くなってる気がする。
壱也さんが強いって言ってもやっぱり相手は大人数だったし、特に壱也さんは集中攻撃を受けていたからケガしててもしょうがないとは思うけど、でもやっぱり好きな人にケガして欲しくない。
黙ったままの壱也さんに視線を注いでいると、ふと目が合ってしまった。
「どうした?」
「え、や、、」
やっぱりばれてしまった。
逆に心配そうな顔をされて焦る。
「あの、・・・大丈夫ですか?」
ぎゅっとジュースを握った手は膝の上、視線だけを上げて壱也さんを見たけど、何のことかわからない、壱也さんはそんな表情をしていた。
「ごめんなさい、……俺のせいで」
続いた言葉に壱也さんは一瞬驚いたような顔をした。
でもそれはすぐに崩されて、ふっと目元が優しくなる。
「別にお前のせいじゃないだろ」
そう言って壱也さんは優しく優しく俺の頭を撫でた。
優しく細められた目も、優しく撫でる手も、違うって言ってくれてるようで、何だか泣きたくなる。
俺が簡単にあいつについて行ったから招いた喧嘩なのに。
「で、でも、」
「稜太」
やっぱり俺のせいだって言いかけたけど、俺をまっすぐ見る壱也さんの目が真剣で、何にも言えなくなった。
「お前のせいじゃない」
「・・・・・」
「それに喧嘩は慣れてるから、気にすることじゃねえよ」
な、って念を押すように言われて頷くしかなかった。
小さく頷く俺を見ていい子とでも言うように、にっと壱也さんが笑う。
壱也さんはずるい、そう思った。
「え、と、痛くないんですか?」
少し躊躇ったけど、痣になっている口元に触れないようにその横にそっと指を添えた。
近くで見ると少し切れているようで口の端が赤くなってるのが街灯の光で浮き上がって見えた。
「痛くねえよ」
「ほんとに痛くないんですか?」
「痛くねえって」
「ほんとにほんとに痛くないんですか?」
「そんな痛くねえから、大丈夫だって」
「・・・・・」
眉尻を下げて微笑む壱也さんにきゅうううっと胸がしめつけられた。
こんなになってて痛くないわけないじゃん。
俺が心配しないようにそう言ってくれてるんだと思ったら、すごくすごくこの人が愛しくなった。
俺の全部が壱也さんでいっぱいになって埋め尽くされたみたいだ。
その感情は俺の思考回路を奪って、無意識に身体が動くほどで。
「・・・稜太?」
「え?・・・あっ」
上から名前を呼ばれて顔を上げると壱也さんの整った顔がめちゃくちゃ近いところにあった。
しかも、俺の手はしっかりとその背中に回っていて、自分が何をしたのかわかって一瞬で全身が熱くなった。
え、なに抱きつちゃってんの。
無意識とか、そんなレベルじゃないだろう。
自分が恐ろしい!!
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