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18歳以上ですか?
寝不足です。にしおりをはさみました!
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寝不足です。
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ふらつく頭でレジに立つものの全く仕事に集中出来ない。
昨日は考え過ぎて一睡も出来なかった。
寝ようと努力はしてみたものの、頭の中に浮かび上がる泣きそうな蓮の顔に、優しく笑う壱也さん。
交互に二人の顔が出てきてもう本当に考えることを放棄してしまいそうになった頃には、朝という残念な俺。
今日が土曜日で良かった!なんて思えないのは朝からバイトが入っているからで、しかも夕方まで。
今はまだ昼前だけど、長時間立ってるとか寝てない身体には相当堪えるのだ。
客への声かけもいつもの半分以下の声量だし、このままではレジ打ちまで間違えてしまいそうだ。
ううう、と心の中で呻き声を上げていると不意に店長がバックヤードから顔を出した。
「森川くん、ちょっと」
「え、はい」
店内を見ると幸いにも客は二人。
もう一人レジに立っているバイトの人に声をかけてバックヤードに滑り込んだ。
「なんですか」
店長はパソコンの前に座っていて声をかけるとごめんごめんと振り返った。
「森川くん、体調悪いの?」
「え、」
「顔色悪いみたいだから」
「え、と、まぁ」
寝不足ですなんて言えずに言葉を濁すと、店長はいつもの人のいい笑みでやっぱりって笑った。
「今日はもう帰っていいよ」
「え!?」
怒らせたのかと思って店長の顔を見ると、眉を下げた店長に違うのがわかってほっと胸を撫で下ろす。
「いつも無理聞いてもらってるからね。今日はもう帰ってゆっくりしときなよ」
「あ、ありがとうございます!」
ペコっと頭を下げるとお大事にと柔らかい声が降ってくる。
優しい店長が俺には神様に見えた。
帰ったら速攻で寝ようとふらつく足取りで店を後にしたわけなんだけれども駐車場から出た瞬間会ってはいけない人に会ってしまった。
「あー!リョウチンだー!」
テンション高々な声が寝てない頭にぐわんぐわん響く。
俺をリョウチンと呼ぶのは一人だけで、言わずともピンクの髪をした銀司さんだ。
「こんにちは」
寝不足の俺の目にはそのピンクはより眩しくて、若干視線は下がり気味だ。
それに目敏く気付いた銀司さんはしげしげと俺の顔をのぞき込んだ。
「なになに、リョウチン、テンション低過ぎね?」
「い、いや、そんなことは」
あなたのテンションが高過ぎるんです。なんて言えないです。
ふーんとか言いながら銀司さんは相変わらず俺の顔をじっと見ていて、どうにも居心地が悪い。
「リョウチン、」
「はい、何でしょう」
じっと俺を見たままの銀司さんを見れば、目が合った瞬間ニッと笑みを向けられた。
何だろうと思っていれば投下される爆弾。
「壱也と付き合うことになったんだって?おめでとう」
瞬間ボッと顔が燃え上がる。
ほんと爆弾投下はやめてください!
「なんっ!?」
「だって昨日の夜聞いたもん。いや~びっくりしたよ、こんな早くくっつくとは」
「は、!?」
「そうそう。もうちょっと時間かかるかなって思ってたけど、案外壱也待てなかったみたいじゃん」
「なっ」
「何で知ってるかって?だって二人とも好き好きオーラ出まくりだったもん」
会話が成り立っていることが不思議でならない。
しかし、今はそれどころじゃなく、あはははと声高らかに笑う銀司さんに、心の奥底から恥ずかしさが滲み出てくる。
そんなにわかりやすかったのかと、ほんとに誰でもいいから俺を地面に埋めて誰の目にも触れられないようにしてほしい願望に駆られた。
「何してんすか銀司さん」
不意に銀司さんの後ろから聞き慣れた声が聞こえて、銀司さんが振り返ると同時その声の主が目に入った。
「マコト!」
「あ、稜太」
驚いたようにこっちを見るマコトとばっちり目が合った。
これは助けてもらわねばと、失礼ながら銀司さんの視線を遮るべくマコトの影に隠れる。
そりゃ、ちゃんと隠れるわけじゃないけど、一枚壁があるだけで俺の心は少しばかり落ち着きを取り戻すのだ。
「あ、リョウチン逃げたな~」
「えっいやっそういうわけではっ」
なんと目敏い。
マコトの影に隠れる俺に銀司さんは唇を尖らせた。
そんなことありませんと言うけど、目が泳ぐのはもうこの際気にしないでいただきたい。
どうにかこうにか銀司さんの視線から逃れていると諦めてくれたのか、銀司さんは飲み物を買ってくると言ってさっき俺が出てきたコンビニへと入って行った。
幸いにも角を曲がってから銀司さんに捕まったから、店から俺たちは見えない。
気をつかって帰らせてくれた店長に道草くっててごめんなさいと心の中で謝った。
ほっと胸を撫で下ろしていると今度はマコトから視線を感じる。
顔を上げるとやっぱりマコトがこっちを見ていた。
「良かったな」
「…うん」
一言だけだったけど、普段の数倍優しいマコトの表情に俺も自然と頬が緩んだ。
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