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気をつけなきゃ。にしおりをはさみました!
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気をつけなきゃ。
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「お待たせ~…って何か増えてんだけど」
雅宗さんと馨さんが来て割とすぐに厨房からマコトが出てきた。
銀司さんが待ってましたとばかりに駆け寄ってくけど、マコトは丁寧にテーブルに皿を置いたあと清々しいほど見事なチョップを銀司さんにお見舞いした。
呼ぶならちゃんと言ってくれとブツブツ言っているのが聞こえる。
てか何で銀司さんが呼んだってわかったんだろ。
さすがマコト。恐るべし。
フジさんも出てきて、早速食べようってテーブル席へと移動すれば並べられた料理に驚いた。
きれいに盛られたサラダに、何かわかんないけど家では出てこない豪勢なパスタ、それにスープまでも準備してあった。
マコトもフジさんも料理出来るとか尊敬しちゃうな。
「マコトが料理できるとか全然知らなかったや」
「言う必要ねえじゃん」
「そうだけど。マコトすごいね!」
俺なんて全然だし、素直に思ったことを言ったらちょっとだけマコトの頬が赤くなった。
照れてるのかなってマコトの顔をのぞき込めば、俺までもチョップを食らわされた。
…理不尽だ。
でも友人の意外な一面を知ってご機嫌な俺にはちょっとの痛みくらいは気にならない。
それから賑やかなランチタイムになるんですが、マコトの隣に座ろうと思っていたら、馨さんに腕を取られて半ば無理矢理馨さんと壱也さんの間に座らされた。
「お前ここな」
「え、えっ?」
いや、うん。壱也さんの隣は全然嬉しいんだけども、ちょっと馨さんに近付くのはご遠慮したかっただけに思わず顔が引き攣ってしまった。
でも一回座ってしまえば立つなんてちょっと失礼だし、無理。
逃げんなよとその恐ろしい眼光がそう言っているように感じる。
たぶん今逃げたら間違いなく殺られる…!!
「おいリョウタびびってんなよ。別にとって食おうってんじゃねえんだからよ」
「いいいいいや、べっべつにそういうわけでは…」
元々なんだろうけど、その鋭い眼つきでじっと見られれば誰だってビビると思いますけど!
もうほんとこの人やだ。冗談抜きで怖いです。
もはや涙目になっている俺にはそんなこと言えないけど。
「馨、あんま稜太いじめんなよ」
そう言って救いの手を差し伸べてくれたのは、他でもない壱也さんだ。
ぱっと壱也さんを見るとこっち来いって俺を馨さんから遠ざけてくれた。
この際料理が遠くなったのは気にしない。
「んだよ。お前のハニーちゃんと仲良くなろうって思ってんのに」
「いらねえ。つかなんだよハニーちゃんって」
「あ?お前の彼女だからハニーちゃんだ。あ、彼氏か」
ははは、と一人楽しそうな馨さんに呆れたように溜め息を吐く壱也さん。
ちょっと困ったような呆れ顔をじっと見れば、気付いた壱也さんがぽんぽんと頭を撫でてくれた。
「悪いな稜太。悪いヤツじゃねえんだけど」
「え、だっ大丈夫です」
今は、という言葉は飲み込んだ。
馨さんに聞こえていたら大変だもん。
なんてやってたらいつの間にか取り分けられていたお皿が目の前に置かれる。
単純な脳みそはそれを見て再びグーっとお腹を鳴らせた。
「あー、食ったわー」
満足そうに銀司さんが椅子に仰け反った。
体重を受けた背凭れがギッと音を立てる。
マコトたちが作ってくれた昼食はあっという間になくなってしまった。
「ごちそうさまでした」
美味しかったとマコトとフジさんに笑顔を向ければ、二人とも嬉しそうに笑顔を返してくれた。
片付け始めたマコトに俺も手伝うと皿を重ねていると、カウンターのほうで壱也さんと一緒にタバコを吸っていた馨さんに呼ばれて、どうしようかと皿と馨さんの顔を交互に見ていればマコトが行ってこいと皿を受け取ってくれた。
「…何でしょうか」
多少は慣れてきたとは言え、やっぱり苦手なこの人にちょっと距離を取ってしまうのは防衛本能ということで目を瞑っていただきたい。
座れと促されたのは壱也さんの隣でほっとしつつ大人しくそこに腰を降ろした。
「わかってると思うけど、」
そう話し始めた馨さんを壱也さんを挟んでのぞき見れば真剣そうな顔にちょっとだけ緊張した。
「気をつけろよ」
「え、」
「昨日、赤城がお前拉致ったんだってな」
何でこの人が知っているのかと思わず目を見開いた。
拉致られたというか、自分からついて行ったというか。
でも結局目的は一緒なのだから何も言わなくていいかな。
第一怖いもん。馨さんが。
「なんでそれ…」
「雅宗から聞いた。それにこいつの顔。そうそう殴られねえヤツが殴られてんだ、何かあったって思うだろ」
「・・・・」
チラッと壱也さんを見るとちょっと難しい顔をしてる。
「今回は無事だったけど次何かあっても大丈夫っていう保証はねえ。赤城みてえな馬鹿はどこにでもいんだよ」
「・・・・」
「壱也のことだから、何が何でもお前のこと守るだろうがお前も気をつけとけよ」
「…はい」
真剣なその表情に頷くしかなかった。
何故、馨さんにそんなことを言われるのか。
そう思ったけど、たぶん、壱也さんは俺が不安がるから言わなかっただけで、だから馨さんが言ったのかもしれない。
今回みたいなことが起きないように。
俺のためにも。
壱也さんのためにも。
「辛気臭え顔すんなよ。何かあった時は俺も動いてやっから」
「え、」
「あんま壱也に心配かけんなよ」
そう言って馨さんはにっと笑った。
やっぱり悪い人ではなさそうだ。
…ちょっと苦手だけど。
「じゃ、俺帰るわ」
「もう帰るのか」
「おう。大事なハニーちゃんとデートなんだよ」
立ち上がった馨さんの表情がびっくりするくらい柔らかいものになった。
それだけでそのハニーちゃんという人がすごく特別なんだってわかる。
この人もこんな表情するんだって失礼ながら感心してしまう。
嬉々として店をあとにするその背中を見送れば、途端に壱也さんが溜め息を吐いた。
見ると複雑そうに笑っている壱也さんが俺の髪をくしゃくしゃと掻き混ぜた。
「ごめんな」
「何がですか?」
「不安にさせたろ」
よしよしと俺を撫でている壱也さんのほうが不安そうな顔をしていて、ちょっとだけ抱きしめたい気持ちが湧き上がった。
でもそんなことする勇気も度胸もないから。
「大丈夫です。壱也さんが守ってくれるから」
頭を撫でる手を取って、キュッと握りしめて笑えば壱也さんはちょっと驚いて、でも、当たり前だって優しく目を細めた。
俺を守るって言ってくれる壱也さんに心配なんかかけたくないから。
俺も、ちゃんと気をつけなきゃ。
そう強く自分に言い聞かせた。
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