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彼は有名人です。にしおりをはさみました!
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彼は有名人です。
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「・・・・」
映画館のトイレで鏡の中の自分とにらめっこ。
何となくまだ赤い気がする。
久々の映画は面白かった、と思う。
どうして微妙な感想なのかと言うとあんまり内容を覚えてないからです。
それはあれです。
ちょっと?いやかなり緊張してしまって。
まあ、その原因というのが実は壱也さんだったりするんだけども。
室内が暗くなって作品紹介とか始まったあたりに壱也さんに手を握られた。いや、繋がれた、が正しい。
しかもいわゆる恋人繋ぎと言われる繋ぎ方で!
いきなりでめちゃくちゃびっくりしたけど、嫌なわけもなくむしろ嬉しくて繋がれた手をちょっとだけ握り返した。
もちろんめちゃくちゃ緊張しましたけどね。
たぶんというか間違いなく手汗やばかった。
思い出すだけでまた顔に熱が集まった。
しっかりしろ俺。
長いにらめっこをやめてあんまり待たせるのはいけないとロビーに向かっていると狭い通路の先、いかにも柄が悪そうな二人組が見えた。
すれ違う人の迷惑も考えてないって感じで全く避けようともしないで身体が当たりそうになった人にガン飛ばしている。
これは関わらない方がいいと思っていると、運が悪いのかすれ違いざまに肩が茶髪の男にぶつかってしまった。
正確にはぶつかられたんだけど。
「いってえな。どこ見て歩いてんだよ」
「す、すいませ…っ」
ぶっちゃけ痛いわけないじゃん、てかそっちがぶつかってきたんじゃん、とか思ったけどそんなこと言えるわけないので速攻で謝った。
「まじないわ~」
「ちゃんと謝れよお前」
えええええええ!?
ちゃんと謝ったじゃん。
聞こえてないんですか。とかやっぱり言えません。
「すっすいません…っ」
「声ちっせえ」
「おら、ちゃんと謝れ」
「すいませんっ」
今度は頭も下げるけど虫の居所が悪いのか何なのかそいつらは立ち去ってくれなくて、通って行く人は哀れむような視線を送ってくるだけで助けてもくれない。
間近でガンつけられて最早涙目だった。
「あーそうだ。土下座しろよ、土下座」
「え…」
「何それまじウケる!」
突拍子もないことを言ってきて二人組はいかにも楽しそうに笑ってる。
いやいやほんと笑えないんですけど。
あまりの理不尽さに視界が滲んだ。
茶髪の男の手が俺の肩に触れようとした瞬間、
「何やってんだ」
いつもより1トーン低めなよく知っている声が聞こえた。
その声のほうに顔を向けると壱也さんがいて、その姿にほっと息を吐く。
もちろん二人組も壱也さんを視界に捕らえていて、理不尽なそいつらは矛先を壱也さんに向けた。
「何だよお前」
「あ?何やってんのか聞いてんだよ」
威圧するように二人を睨みつけている壱也さんは明らかに不機嫌で、殺気さえ漂わせているような姿に息を飲む。
見たことのない壱也さんに少し驚いていると、片方の男が焦ったように茶髪の男に耳打ちしたのが聞こえた。
「おい、やべえってこいつ香月の本山だろ」
「は?まじかよ」
「えっ?」
何でこの人達が壱也さんを知ってるんだろ。
二人を凝視していると茶髪の男がわざとらしく舌打ちをして、思いのほかあっさりと立ち去った。
当たり散らすように壁を蹴っていたのは見てないことにします。
二人の姿がロビーに消え、心の底から安堵の息を吐くと二人の背中に刺すように視線を送っていた壱也さんが俺を見る。
その表情からはさっきの不穏な気配は消えていて、いつもの俺の知ってる壱也さんだった。
「大丈夫か?」
ぽんぽんと頭を撫でられて不覚にも涙腺が緩んだ。
「…ちょっと怖かったです」
「何もされてねえか?」
「…はい。ありがとうございます」
顔を俯かせる俺の頭を壱也さんはよしよしと撫でた。
土下座させられそうになったとか言えません。
本当に壱也さんがいてくれてよかった。
おずおずと視線を上げるとふっと細められる目に、思わず心臓が高鳴った。
「ほんと目が離せねえよ」
ここがトイレへの通路だということも忘れて壱也さんのその表情に見惚れてしまう俺だった。
「そう言えば、なんであの二人壱也さんのこと知ってたんですかね」
さっきからちょっと疑問だったことを壱也さんに投げかけた。
街中のこじんまりとした喫茶店で遅めのランチなうです。
お昼時から時間帯がずれたおかげであんまりお客さんがいないから、男二人でもあんまり浮いた感じもないし、お店の雰囲気も相まってゆっくりできる空間だった。
向かいに座る壱也さんの手が伸びてきて、親指でグイッと口元を拭われる。
それをそのまま舐めとる壱也さんにボッと顔が熱くなった。
「一応、香月の頭張ってることになってるからな。他校にも面は割れてんだろ」
ちょっと面倒くさそうに壱也さんが溜め息を吐く。
あの言い方からして違う学校の人っぽかったから納得だった。
良いことばっかりじゃないだろうし、ちょっと大変そうだなって思った。
それにしても、
「壱也さん有名人なんですね。すごいですよ」
「あんま嬉しくねえよ」
言ってることに反して、壱也さんはぷっとおかしそうに笑った。
また変なこと言ったのかと首を傾げていると、壱也さんと交わる視線。
「でもお前に言われると悪くねえな」
相変わらず優しい視線に俺の心臓は性懲りも無く高鳴って、やっぱり頬も熱くなった。
それから、先に食べ終えた壱也さんの視線に晒されながら食べることになるんだけれども。
緊張の中、完食したホットサンドに俺の胃はしばらく苦しむことになったのでした。
今度来るときは壱也さんより早く食べ終えてしまおうと固く心に誓ったことは内緒です。
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