アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
満月と意地悪と乙女。にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
満月と意地悪と乙女。
-
「疲れたろ?」
「そんなことないですよ。楽しかったです」
隣を歩く壱也さんに笑いかけると壱也さんは安心したように口元に弧を描いた。
立ち並ぶビルの隙間に満月が見える。
時刻は午後10時過ぎ。
誰もいない路地裏で壱也さんと手を繋いで歩いていた。
Le Lienにいたのは1時間くらいで、なんだかんだあっという間の時間だった。
リュウさんは優しいし、フジさんもよく気にかけてくれてたし。
本気で驚いたことにあの数人の不良風なお兄さん達からデザートをご馳走になったりして。
聞いたら壱也さんと結構仲がいい人達らしくて、意外に優しい人達にやっぱり人は見かけで判断したらいけないと思った。
で、それは一先ず置いといて。
何よりも壱也さんと同じ空間にいられたことが一番嬉しかった。
やっぱり好きな人が慣れ親しんだ場所っていうのはものすごく重要で、そういう場所に連れて行ってくれたことが俺にとっては大きなことで内心はしゃいでた。
慣れない場で緊張はしたものの壱也さんに言った通り、ほんとに楽しかった。
「でも良かったんですか?こんなに早く帰って。俺、まだいても良かったですよ?」
壱也さんが帰るかと言った時のリュウさんとフジさんの表情を思い出した。
二人とももう帰るのかって驚いたような顔してたな。
普段ならたぶんもっとゆっくりしてただろうし、きっと俺がいたから気を遣って早めに切り上げたんだと思う。
ちょっと申し訳ない気持ちもあって壱也さんを見上げると相変わらずの優しい表情が月明かりの下に見えた。
「気ィつかってんなよ。今日はリュウさんに稜太を見せたかっただけだから。元からすぐ帰るつもりだったし」
「そうなんですか」
「ん。それにせっかく稜太が泊まり来てんのに勿体無えだろ」
ニッと口元を吊り上げた壱也さんの表情がどこかやらしさを含んでるように見えてしまって一瞬で顔が真っ赤になってしまった。
暗くて良かったと本気で思った。
そんな俺に気付いているのかいないのか、壱也さんは口元に笑みを浮かべたまま空を見上げた。
「そういえば、初めてお前に会ったのって満月だったな」
「え、」
不意にそんなことを言われて驚いた。
思わず壱也さんを凝視する。
意外だった。
壱也さんがそんなこと覚えてたとか。
「覚えてねえか?」
「い、いえ!覚えてます!」
それはもう鮮明に。
あの夜の。
月明かりに照らされた金色の髪はとても綺麗で、
「たぶん、ずっと忘れないです」
「そうかよ」
壱也さんが笑ったのがわかった。
繋がれた手を強く引かれて、あっと思った時には俺は壱也さんの腕の中にいた。
「え、い、壱也さん?」
突然過ぎて思考がついていけてない。
頭の中は軽くパニックだ。
はあああ、って長く息を吐き出す壱也さんに更にどうしていいかわからなくなって、ますます身体は固まってしまう。
「あ、あの、」
「あんま可愛いこと言うなって」
耳元で喋られる擽ったさに思わず肩を竦めて、おずおずと壱也さんを見上げるとバッチリと目が合ってしまってまた動きが止まる。
そんな俺に壱也さんはふっと笑ったかと思えば、ゆっくりと近付く整った顔に思わず目を閉じると微かなアルコールの香りと共に唇を塞がれる。
上手く回らない頭はその香りだけでも酔えそうだった。
少しだけ触れ合ったそれは名残り惜しげに小さく音を立てて離れた。
ゆっくりと目を開くと優しい表情の壱也さんがいて、何でか急激に恥ずかしさが襲ってきて一気に顔が熱くなる。
「やっぱ、お前可愛いわ」
「な、」
その真っ赤になってるだろう俺の顔を見て、更に追い打ちをかけるように壱也さんはおでこにキスを落としてきた。
首元まで赤くなった俺に満足そうに笑う壱也さんの表情がちょっとだけ意地悪に見えたのは気のせいだろうか。
「帰るか」
「・・・はい」
ようやく解放されて安堵の息を吐くけども、ちょっとだけ名残り惜しいと思う自分が乙女のようだ。
もうやだ俺。恥ずかしすぎる。
ちらりと見た壱也さんの横顔はやっぱりどこか楽しそうで。
その余裕な表情にちょっとだけずるいと思った。
俺ばっかりドキドキしてるのは嫌だからせめてもの仕返しにと、俺の手を引く壱也さんの手をキュッと握り返した。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
53 / 72