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諦めんな。にしおりをはさみました!
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諦めんな。
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「友達と喧嘩しちゃったんです、俺」
壱也さんが座るのを見計らって口を開いた。
隣に腰を下ろした壱也さんはさっきの俺のお願いをちゃんと聞いてくれて黒いTシャツに身を包んでいる。
暑いのか袖部分を捲っていて晒された逞しい二の腕がいかにも男らしくて羨ましい。
変哲もない無地のTシャツなのに壱也さんが着るとカッコよく見えるのは何故だろう。
ドキドキと脈打つ心臓は相変わらずうるさいけど、これで一安心だ。
「喧嘩?稜太が?」
「は、はい」
驚いたように俺をのぞき込む壱也さんにコクンと頷けば、尚更目を丸くする壱也さんに思わず苦笑した。
何もそんなに驚かなくても。
「意外だな」
「え?あ、でっでも別に殴ったり殴られたりとかじゃないですよ?」
「わかってるよ。けど俺のイメージになかったからな、稜太が誰かと喧嘩するってのが」
「俺も喧嘩ぐらいしますって。一体どういうイメージなんですか」
ほんとに意外だと言わんばかりの反応をする壱也さんに苦笑が漏れる。
壱也さんの中の俺は一体どんなイメージなのか。謎過ぎる。
そんなことを思いつつソファの上で膝を抱えた。
「…その友達って幼馴染みなんですけどね」
「ん?」
「小さい時から一緒だから、その分いっぱい喧嘩とかもしてるんですよ」
「うん」
「でも、何て言うか、…今まで喧嘩した中で今回のが一番危ないなって思っちゃってるんですよね」
「・・・」
「あの、喧嘩の原因とかは言えないんですけど、でも、そのことでお互い納得出来てなくて、それで喧嘩になっちゃったっていうか、すれ違ってるっていうか、……たぶん、俺が勝手なんだと思います」
蓮の泣きそうになった顔が脳裏に浮かんだ。
その表情をさせたのは間違いなく俺で。
「勝手でも、俺、わかってほしくて。でもそいつ、すごく怒ってて。俺はちゃんと話したいし聞いてほしいって思ってるけど、でも、全然話せてなくて、…ていうか、シカトされちゃってて、」
「・・・」
「たぶん、絶対認めたくないんだと思うんです。でも、俺も絶対譲りたくなくて。だからってギクシャクしてるのもやだし。…でも話しかけてもシカトされるし、電話しても出ないし、家に行っても会ってくれないし、メールもLINEもダメだし。…ほんとどうしようかなって…」
思い出したら泣きそうになって、でもそんな顔を見られたくなくて抱えてる膝に顔を埋めた。
壱也さんの視線を痛いくらい感じるけど、でもまとまらない俺の話を黙って聞いてくれててこんな状態なのにやっぱ優しいなって思った。
マコトには少し話してたけどあんまり心配かけたくなくて最近は誰にも言わないようにしてた。
だからか、一度吐き出してしまえば止まらなくて、心の奥底から零れ落ちるように出てくる言葉に自分でも驚いた。
「…離れちゃうのもしょうがないのかなって思っちゃってます」
ははっと自嘲するような笑いが零れた。
自分で決めたことなのに。
蓮にもわかってもらいたいって思ってたのに。
もう諦めたほうがいいって、そう思ってる自分がいた。
「・・・・」
「・・・・」
無機質なエアコンの音だけが響く静かな部屋に鼻を啜る音が交じる。
頬がじんわりと濡れて少し気持ち悪かった。
不意に壱也さんの手が頭に伸びてきて、ゆっくりと顔を上げれば相変わらず優しい目と視線がかち合った。
「稜太はそれでいいのか」
「・・・・・」
まっすぐに俺を見る瞳に同じように見つめ返しながら、ゆるく首を振る。
いいわけない。
だってずっと一緒にいたのに。
でも、もうどうしていいかわかんないんだ。
更に溢れ出そうになる涙を必死に堪えていれば、ぐしゃぐしゃっと髪を掻き乱された。
「いっいちやさん?」
「諦めんな。泣くくらい大事な奴なんだろ?だったら胸倉掴んででも引き止めて、言いたい事ちゃんと言ってこい。そんでしっかり話し合ってこいよ」
「・・・・」
「稜太なら大丈夫だ。もし、それでもダメだったら俺んトコ来て泣いたらいい」
そう言って壱也さんは優しく目を細めた。
その優しい表情が大丈夫だよって、俺がいるからって、言ってくれてるみたいで、俺の涙腺は壊れたみたいに大量の涙を溢れさせた。
「泣くなって」
「ぅっ…だってっ、」
泣き出す俺に壱也さんは苦笑しながらも、その長い腕で抱き寄せてすっぽりと包み込んでくれる。
壱也さんの肩口にぐりぐりと頭を押し付ければ、優しく頭を撫でられた。
「お、おれッ、がんばりますっ…」
「ん、負けんな」
ぽんぽんと背中を撫でられた。
それだけで、不思議とまだ頑張ろうって思える。
どうしてこの人はこんなに頼もしいんだろ。
俺を宥めるように撫でる手が優しすぎるから更に涙が溢れてしまって、壱也さんのTシャツに染みがどんどん広がっていく。
申し訳ないと思いつつも止まらない涙をそのままに壱也さんにしがみ付いていた。
「胸倉掴めっつったけど殴り合いとかすんなよ?マジ心配すっから」
「し、しませんよッ」
自分でも想像出来ないその状況に思わず泣きながら笑えば、安心したように壱也さんは笑った。
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