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不機嫌な声。にしおりをはさみました!
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不機嫌な声。
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リビングに続く引戸の前でひとつ深呼吸。
浮かびそうになる卑猥な記憶と負の感情を押しやって、そっと戸を開けた。
ん だ け ど、
…あれ?
顔だけのぞかせてリビングを見るけれども、定位置であるソファに壱也さんの姿はない。
どこに行ったんだろって思いながら、一歩リビングに踏み出したと同時。
聞こえた低く唸るような声にビクッと肩が大きく跳ねた。
「…いい加減しつけえって言ってんだろ」
声のほうを見れば、キッチンの換気扇の下でタバコを片手に、ケータイを耳に押し当ててる壱也さんの姿があった。
壱也さんはこっちに背中を向けて立ってるせいか、俺に気付いてないみたい。
呆れたような、怒ったような声色に何事かとその背中を凝視した。
「…は?もとからそういうつもりはねえって言ってただろうが。勘違いしてんじゃねえよ」
たらり、とよくわからない汗が一筋背中を伝う。
いてくれたことに安堵しつつも、明らかに怒気を含んだその声に自分に向けられたものじゃないとわかるものの身が竦む。
纏う空気も普段と違いすぎて、相当不機嫌だということが見て取れた。
これはもしかしなくともめちゃくちゃタイミングが悪い時に出てきてしまったのかもしれない。
……一旦出直そう。
そう思って一歩、寝室からはみ出した身体をそろりと引き戻した。
「……しつけえっつってんだろ」
初めて聞くドスの利いた声に一瞬身体の動きが止まる。
「 いい加減マジでキレんぞ」
更に続く言葉に静かに戸を閉めた。
もちろん、音は一切立てません。
閉じた戸の前で立ち竦む俺。
頭の中ではさっきの壱也さんの声が響いてる。
初めて見る壱也さんの一面に戸惑ってしまった。
いや、でも、壱也さんも人間だもん。
怒る…は、ちょっと違うか。不機嫌になることだって普通にあるって。
いや、でもちょっと怖かった…
いやいやいやいや、
しばらくそんなことをグルグルと考えていると突然戸が開かれた。
「!!!!」
ぴっと肩が跳ね上がる。
目の前にはもちろん、壱也さんがいた。
「稜太、起きてたのか」
壱也さんも驚いたみたいで、目を丸くしてる。
そりゃそうだ。
開けたら人が立ってるんだもん。
「は、はい!おはようございますっ」
「ん、おはよ」
内心ビクビクしながら口を開けば、やんわりとした笑みを返されて思わず首を傾げる。
さっきの不機嫌さは一体どこに行ったのか。
いつもどおりの優しい表情に驚いた。
いやいや、別に怒ってる壱也さんがいいとかじゃなくて、普段どおりの壱也さんに戻ってることに純粋に驚いただけ。
じっと見つめる俺に壱也さんも不思議そうに俺を見返す。
「どうした?」
「え、あっ、何でもないですっ」
さっきの電話の声を聞いてましたとはさすがに言えない。
首を振る俺に、壱也さんは少し不思議そうだったけど、ならいいけどって言って俺の髪を撫でた。
「朝飯はどうする?一応作っといたけど」
「あっ、食べます!」
そんなのもちろん食べるに決まってる。
想像していたとおり食事を準備してくれていた壱也さんに思わず笑みが零れた。
リビングに戻る壱也さんの後を嬉々として追う俺に、壱也さんが口元を緩める。
優しく細められたその目にちょっと照れていれば、不意に引き寄せられて頭の天辺にひとつ、キスを落とされた。
「…!」
「かわい」
不意打ちに不意打ち。
大好きなこの人は本当に俺を驚かせるのが大好きみたいです。
かあっと頬を火照らせる俺に満足気な笑みを浮かべた壱也さんは、俺にソファに座るように促して自分はキッチンに入っていった。
そんな壱也さんを目で追いつつ、冷めやらぬ熱をそのままに言われたとおりソファに身を沈める。
不意打ちには驚いたけど、壱也さんがいつもどおりで良かった。
一人胸を撫で下ろしたのだった。
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