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兄弟の日常2にしおりをはさみました!
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兄弟の日常2
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「空きなんかあんのかね………おっラッキー」
運良く空席を見つけた彼はその席に座りぼんやりと人混みを眺めていた。
お洒落な服に身を包んだ若い女性の集団、しかし皆スマホを触っている。
自分と同じように席を取り連れを待っているであろう男性と子供、こちらも大人はスマホ、子供は携帯ゲーム機で遊んでいた。
誰かと一緒にいるのに、目の前の人間の方を向かないまま話しをしている光景は
彼には少し異様に見えた。
目は合わさないし、話も耳に入ってはいないが返事をする。
誰もそれに異議を唱えず、寧ろそれが当然だと言うように他の人もまた、同じことをしている。
耳に入ってくる声は「それな」「確かに」「わかる」ばかりで、
今そこでそのメンバーで集まる意味はあるのだろうかと
当事者でもなんでもない彼が悩んでいた。
違う女性グループは化粧を直しているようだが、物を食べる机の上にたくさんの
化粧の粉を落としてもまったく気にならないようだ。
机の上だけでなく、彼女たちが飲んでいるコーヒーカップの中にもたくさん粉が落ちているようだが…
「(しっかし、瞼にあんな重そうなもん貼り付けて、瞼伸びねえのか?)」
「お待たせー。探すのも大変だったけど、辿り着くのも大変だったよ…」
そんなことを考えていたら飲み物を持った眼鏡の彼が飲み物を持ってやって来た。
店内を歩いただけなのだが、顔は疲れ切っている。
「おう。…ありがとな。」
「寒かったから抹茶ラテにしたよ。熱いから気をつけてね」
「…っお、おう」
飲みかけて舌に触れた瞬間痛みが走った。洒落にならないぐらい熱い。
「いやーでも、街中でお兄さんと出会うなんて思わなかったな」
「そうだな」
「何してたの?」
「………まあ、色々と。」
「そっか」
少し話して、沈黙。
ラテを冷ましている彼は時折キョロキョロと店内を見回しては
飲むタイミングを計っている。
「そういや、さ」
「何?」
「お前、彼女とかいねえの」
「……どうして?」
「いや。……普通こういう時って、彼女とかと一緒にいるもんなんじゃねえの。カウントダウンとかさ」
「うーん。そうだね。うん。僕は、彼女は作らない様にしてるんだ。」
「何だそれ」
やっと飲めるようになったラテを飲むのをやめて彼を見る。
てっきり恋人がいて待ち合わせでもしてるものだと思っていた彼は酷く驚いた顔をしていた。
「ほら。僕、今までお兄さんにたくさん酷いことをしたでしょ。誰かの人生が狂ってしまうくらい傷つけた人間が
幸せになるのはどうなのかなって思ってさ」
「そんなもん気にすることじゃねーだろ」
「でも、現にお兄さんは心の回復の途中でしょう。そんなに痛めつけた人間が、
まあのこのこと生きていることすら可笑しいのかもしれなけどね。」
「……命は粗末に扱うもんじゃねーぞ」
「そのくらいの酷いことをしたんだから。それでも生きているんだけど。」
「………俺はさ、もう、気にしてねーっていうか。お前のあれはただの切欠であっただけで。」
「それでも」
「確かにな、ここに至るまで、辛かったけど。辛かったから、あんな気持ちをお前にして欲しくないんだよ。
お前だけじゃなくて、他の誰かにも。だからさ、もう気にすんなよ。
今は、ほら………その、な。あのー……近くに、居てくれる人が居るからさ。」
「……お兄さん……は、それでいいの?」
「今が、楽しいから。いいよ。お前だって反省したってこの間言ってただろ。それは嘘じゃないだろ。」
「………うん」
「だったらそれでいいだろ。あそこで区切りはついたんだからさ。切り替えていけばいいよ。」
「…………ありがとう」
店内の喧騒が、慌しい空気が、まるで嘘だったかのように暖かい沈黙が二人を満たしていた。
お互いに柔らかく微笑みあい、同じようなタイミングでコーヒーカップに手を付ける。
それが少し可笑しくてより一層二人の笑みは深くなった。
「「………熱っ」」
そしてまた、同じようなタイミングで舌を火傷した青年二人は
年の瀬の空気の中をゆっくりと過ごしていた。
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