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18歳以上ですか?
おかしいだろ?にしおりをはさみました!
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おかしいだろ?
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呆然と立ち尽くす俺たちに、じいさんが上がってくるようにと促す。
二人をやや遠巻きにしながら、石畳の上を歩いている時、都雪くんは俺の後ろに身を隠す形になっていた。
お姉さんの横を通ろうとした時、彼女がまた、都雪くんに向かって、一歩踏み出そうとしたのを、男性が止める。
夏の終わりを思わせる、穏やかな日であるにも関わらず、辺りに漂う空気は張り詰め、どこか冷気を帯びていた。
やや、足早に俺たちがじいさんの隣に並ぶと、じいさんと男性が向き合い、何かを話し出そうとしていた。
だが、それを遮ってお姉さんの甲高い声が響く。
「私は、もう大丈夫です!!都雪に手を上げたりもしません!だから、都雪の元へ帰して下さい!!」
"もう手を上げない"
つまり今までは…などと、俺の頭で組み立てられていたかはわからない。
とにかく、この人の勝手な言い草に、無性に腹が立ち、お前になんかやるもんか、と怒鳴りつけてやりたい衝動に駆られた。
だが、そうしなかったのは、都雪を返してではなく、都雪の元へ帰してと言う言い回しに気を取られていたからかも知れない。
しかも、お姉さんは、俺やじいさんにそう言ったのではなく、男性の和服にしがみついて懇願している。
一体、この男はなんなのだ?
どれだけの権力がこいつにあると言うのか——
ただ、わかるのは公的機関の人ではないだろうと言う事だった。
男性は掴みかかるお姉さんには見向きもせず、名乗りもせず、都雪くんに鋭い視線を送った。
「どうだ?なにか見えるか?」
やけに低音の効いた声に、俺は少し物怖じしたが、逆に都雪くんはスッと背筋を伸ばし、俺の後ろから一歩前へと踏み出した。
「いえ、何も見えません」
「そうか。ならば、もう大丈夫か?」
「それは……わかりません」
「見えないのなら、いないと言うことじゃないのか。そもそも、私たちには何も見えていなかった」
「あるいは、そうかも知れません。でも、僕にとっては、全くいないと言うことも、あり得ないのです」
男性の責める様な問いかけに、毅然とした態度で答える都雪くんの横顔は、初めて見た時のように、人形と見紛う程、無表情だった。
「それは……困ったな……」
ここにきて、今まで険しい表情を崩さなかった男性が、片眉を上げて視線を逃がす。
それに助け舟を出すかの様に、じいさんが口を挟んだ。
「だけ、一度、姉さんのところに戻ったらどないなん?」
じいさんの事は尊敬しているが、ここで初めて、じじい、余計な事言うんじゃねぇ!と思ってしまった。
都雪くんが助けを求める様に俺を仰ぐ。
しかし、現状の掴めない俺は、この場でなんと言っていいかわからなかった。
都雪くんを引き止めたい。
それでも、親父が言った通り、俺にはどうすることも出来ないし、悲痛とも言えるお姉さんの雰囲気に同情している部分もあった。
眉尻を下げて、都雪くんを見下ろし、どうにも出来ないもどかしさに、その手を握る。
この一ヶ月、俺は何も出来ずにただその手を握ることしか出来なかった。
そして、このまま、終わってしまうのだろう。
都雪くんが手を握り返して来た時に、ふと気付いた事があった。
おかしいだろ?
明らかにおかしいのに、なんで皆、この状態を許している?
元々が、現実離れした話ではあったが、それにしても、今のお姉さんはどうみても尋常じゃない。
本人の意思で霊験あらたかななんちゃらに行ったかは知らないが、都雪くんを預けに来たあの時よりも、明らかに彼女は興奮している。
おかしいまでに都雪くんに執着している。
これこそまさに"魅せられている"状態じゃないのか?
ハッと顔を上げると、お姉さんがこちらを向いて笑っていた。
全身に冷や水を浴びた様になって、身体が一気に硬直した。
白い物が横切るのを、目の端で捉えた気がして、反射的にそちらに視線を向ける。
その時だった。
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