アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
絶叫にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
絶叫
-
「大丈夫じゃない!」
そう、俺が叫ぶのと、それと、どちらが早かっただろう。
肩口に鋭い痛みを感じて、俺は眉をひそめた。
追って、じわりと熱を持つそこを見た瞬間、俺は目を見開いた。
全く信じがたい光景だが、都雪くんのお姉さんが、俺の肩に噛み付いていた。
「ぎゃあああああああ」
悲鳴を上げたのは、俺ではなく、都雪くんだったと思う。
俺は、現状に頭が着いていけず、ただ口をパクパクとさせていた。
紅い糸を引きながら、お姉さん——いや、最早、ケモノに成り果てた彼女の口が離れ、間髪入れずに、俺の喉元へと食らいつこうとする。
ほぼ無意識に身を引いたが、彼女の鋭い爪が、二の腕に食い込み、俺の自由を奪っていた。
とても、女の力とは思えなかった。
間に合わない!と、思ったその時、喉にチリっと短い電流の様な痛みが走る。
だが、それ以上は痛みも熱も感じなかった。
恐る恐る閉じてしまっていた目を開くと、和装の男性と、じいさんが二人掛かりで、彼女を俺から引き剥がそうとしている。
男二人でかかっているのに、彼女はなおも、俺の腕に深く爪を食い込ませ、首元へと食いつこうとしていたのだ。
口の端には、俺の血混じりの泡をためて、目は白目を剥き、犬みたいに歯を剥き出しにしてはうー、うーと唸っている。
唸り声の合間に「お前さえいなければ……」と、低い声で何度も呟いていた。
男性もじいさんも、別々のお経の様な物をぶつぶつ唱えていたが、そんなもん効いていないのは一目瞭然だった。
これはきっと、幽霊でも、妖怪の類でもない。
ケモノ……
ケモノと言う以外に、なんと読んだらいいのだ。
現実逃避に、そんなことを考えながら、俺はやけに第三者的な視点でこの光景を見ていた。
どのくらい四人で、もみ合っていただろう。
「もうやめて!!やめてぇ!!」
泣き叫びながら、都雪くんが彼女に向かって突進してきた。
次の瞬間、彼女は人とは思えない角度にぐるりと首を回し、俺たちが声を上げる間も無く、都雪くんに向かっていった。
ひゅっと息が漏れる様な音と共に、紅い飛沫が視界一杯に散らばる。
まるで夢から醒めたかのように、視界が澄んで来た時には、全てが終わっていた。
俺の眼前で、都雪くんが膝から崩れ落ちる。
彼女も気を失っているようだったが、じいさんや男性に支えられて、そのまま崩れる事はなかった。
都雪くんの首元から、彼女の顔が離れた時、紅い軌跡を描いた事に心底震え上がる。
俺は恐怖に声を上げる事が出来なかった。
それは、じいさんや男性も同じなのか、アホみたいな顔で立ち尽くすだけだった。
「ああああああああああああああ」
最初に静寂を破ったのは、誰でもない、都雪くんだった。
ペタリと座り込む様に崩れ、項垂れていた都雪くんが、突然上体を仰け反らせ、天に向かって叫び出したのだ。
声が出るくらいなのだから、喉元の傷は然程深い物ではないのだろうが、叫ぶ度に、人の物とは思えない歯型からピュッピュッと血が吹き出し、あまりの凄惨さに足が竦んだ。
だが、叫びながら、都雪くんが喉を掻き毟るのを見て、ほぼ反射的に身体が動いていた。
「都雪くん!やめろ!やめろ!!都雪!!都雪!!!」
殆ど抱き締める状態で、手首を掴み、必死で名前を読んでみても、都雪くんは壊れたように空を仰いで叫び続けていた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
37 / 42