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エンディング
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今日も、俺は喧騒の中を歩く。
スーツにも大分慣れて来た。
もう、服の裾を握られる事はなくなったが、人混みに飲まれたりすると、つい自分で裾を握ってしまう。
この中の誰もが、ケモノを引き連れているのだろう。
なんて、自分にしか通じない冗談を胸の中で呟いて小さく笑う。
もう通い慣れた道を足早に辿る。
5階建て、濃灰の壁の集合住宅が、通りの先に見えてきた。
三階の角部屋に電気が灯っていることを確認してホッと胸を撫で下ろすのは毎回のことだ。
外観の割りには古びた階段を登り、見慣れたスチールドアに鍵を挿した。
開錠音で気付いたのか、ドアを開けるなり凄い勢いで俺の胸に飛び込んで来る影。
これも、いつもの事なので然程驚かない。
そっと腕を上げ、頭を優しく撫でれば、誘われる様に胸に埋めた顔が、俺を仰ぐ。
出会った頃と、ほぼ変わらない都雪くんの笑顔がそこにはあった。
今日は、怯えていない。良かった。と、安堵の溜息を漏らした。
就職し、十八歳になった都雪くんを逃げる様にあの村から連れ出して間も無く一年。
一緒に暮らし初めて知ったのだが、都雪くんは夜になると度々発狂した。
自分の中にケモノが居て、それが暴れるのだと言う……
それが都雪くんが他人のケモノが見えなくなった理由であり、夜に会えなかった理由だった。
病院に通うようになってから、大分良くなってきたから、やはり精神的な物なのかとも思う。
それでも、都雪くんがよく口にする
「お兄ちゃんが傍にいれば大丈夫」
という言葉に、もしかすると、ケモノに好かれていたのは、都雪くんじゃなく、俺だったのかも知れないと思うと、背中が薄っすら寒くなる。
因みに、あの時の傷はまだ残っている。
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