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愛夢にしおりをはさみました!
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愛夢
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あったかい。ふわふわした意識の中、耳元で聞こえる声。
『恋、だいすき。愛してる。』
『んー、わかったって、知ってる知ってる。』
『恋は、あんまりそういうこと、言ってくれないんだな。』
『……なんだよ、言ってほしーの?王子様。』
『そりゃあ、勿論。』
言葉が詰まった。
だけど愛の目がこっちをみたら捕らわれて逃げられない。ごくり、唾を飲み込んで。
『すき、に決まってんじゃん!』
嗚呼もう。俺の馬鹿。
好きは好きでも好きじゃないから好きなんて言って期待させて喜ばせてまたズルズル、ズルズルと嘘と責任と執着と、塗り替えるようにまた誤魔化して、そうやってこの先どうするの?
最善は分かっていたんだけど、俺は自分勝手なワガママクズ野郎だからさ、どんな形であれ愛を失いたくはなかった。別れようなんていったら、もうただの幼馴染にも戻れない気がしてならなかった。お前との関係が崩れて行くのが恐ろしかった。
『部屋に置くテーブルの色は白がいいな。』
『なんで白?汚れるだろー』
『だって純白だと汚さないように気をつけるだろ?そしたら綺麗に使えるし。』
そんな会話、思い出すのは何度目だろう。
俺の頬を撫でる王子様。俺の指にキスをする王子様。俺の体の至る所に吸い付く王子様。いつだって俺の一歩後ろをついて来てくれた、王子様。綺麗な顔が、表情の薄い顔が、俺の前で綻ぶことが嬉しかった。というか、もう、はは、多分、うん。
それだけが嬉しかった。
大好き、すき、と言われるたびに、キスをするたびに、抱かれるたびに、違和感を感じて逃げようとしたのは俺の方。裏切り者は俺のほう。ごめん、お前は純粋に俺に恋をしてくれただけだったのにな。
ごめん。
…………ごめん。
18年も、毎日顔を見ていたはずなのに。たった二ヶ月会わないだけで、あの綺麗な顔を鮮明に思い出せない。愛の声、どんなのだったっけ。愛の体温、どんなのだったっけなぁ。
こんな薄情な俺だよ。
やっぱりお前がいなくても、なんとなくやっていける俺だよ。
俺が愛を想うのは、未練でも執着でもなんでもなくて、ただ積もり募った、罪悪感。
『恋が幸せならいいよ、だから』
だから、だからなんなの、なぁ。
『ばいばい』
聞こえなかったサヨナラの言葉。口の動きだけが俺に告げた関係の終わり。それがまだ、まだ、まだ、俺の俺の心を縛って、逃がしてくれない。
終わり、なはずなのに。
もう、考えたくないのに。
俺は前を、向いているはずなのに。
『愛、』
お願いだから。
『もう一回ちゃんと言ってくれよ。』
微笑むだけのお前に触れない。
『聞こえるように、言って。』
こんなの卑怯だ、酷いことすんなよ。
『聞こえるように、ばいばいって言ってくれよ』
そしたら本当に、全部終われるはずなのに。あの時、あの声が、震えていたのか凛としていたのかそれすらもわからないから、あの時お前が泣きそうだったのか清々としていたのかそれすらも汲み取れなかったから、
『言い訳しないで消えてよ。』
そうやって、俺を恨んでいるんじゃないかって。嫌われてしまったんじゃないかって。そんなはずない、俺はお前の全てだと高を括っていた俺に、攻撃力100の大技使いやがった。なあ、俺の致命傷はさぁ。お前の、その、優しさなんだ。
俺は愛の面倒をみるのが好きだった。しょーがねぇなつって、そうやって愛を支えている自分が好きだった。それがとても、俺の存在を、価値を、見出してくれていた。
だからこれが、恋なんだと。
そんなはずがないのに、恋なんだと。
思い込んで弄んだ。そうやって愛の心を、愛情を、踏みにじって、俺は、……俺は。
『最低だ。』
自分が嫌いになっていく。
『大嫌いだ、恋なんて』
大喧嘩したときの、あの言葉だけがいつも俺を刺し殺す。そこでやっと、ばちっと目が覚めてさ、ああ、これ、夢か。と、またあいつの夢をみてたんだ、と。現実に帰るんだ。ベッドのシーツが湿るぐらい、寝汗をかいてさ。一人の部屋の、天井を眺めてまた、胸が痛くて痛くてたまらなく…………な、る?
はず、なんだけど、あれ。ここ何処だ。俺の部屋じゃねーぞ。
もう見慣れた壁に貼ってあるポスターがない。俺は部屋の電気を消して眠らないのに、この部屋は真っ暗だ。あ、れ?つーかなにこの腹に乗っかってる腕、誰?
その腕をたどるように目線をよこす。服を着ていない大輝、だった。…え?俺?え?まって、うそ、俺まさか酔った勢いで…!?バッ!と視線をそらして自分の状態を確認する……お、おお、おれ、俺ズボン履いてない!!!え!?まじで!?もう一度大輝を見る。寝息をたててる大輝、布団をぺらりとめくると、大輝はズボンを履いていた。ただ、上は着てない。俺は下を履いてない、なんだこれどういうことだ!?でもセックスしたあとのあのケツの緩くなってる感覚は、ない。それらしき痕跡はない。あ、あれか、あれだ、俺が混乱してるだけで、大輝も脱ぎグセがあるんだろう。ま、ぎ、ら、わ、しーー!焦った…焦ったわ。よかった、なんでもなくて。
でも、またやっちまった!!!と思った。俺、そういえば加減も知らずに飲みまくって、なんか途中からあんまり記憶がないんだけど、寝た気がする。爆睡した気がする。居酒屋で。
でもここは、部屋だ。多分、というか絶対大輝の部屋だ。うわ、最悪だ俺。また大輝に迷惑をかけた。ここまで連れて帰ってくれたのか、まじか。うーわー……。
自分のクズさに頭を抱える。ついでに言うと頭が痛い。マジで酒が弱い自分がイヤになる。ほんっと俺!ろくでもない!
こめかみを抑えながらゆっくりと起きあがる。俺の腹に乗っていた腕がずるり、と垂れた。
「…水。」
すっげぇ喉乾いたし、大輝の部屋だけど水を貰おう。あー、そういえばこいつ炭酸水ばっかり飲んでたっけ、俺、炭酸水あんま好きじゃない。…東京の水道水って飲めんのかなぁ。そんなことを考えながら、大輝を起こさないようにベッドからぬけ出そうとした時だった。
「ッ…」
長い腕が伸びてきた。グッ、と掴まれて押さえ込まれて全く身動きがとれない。
「おい、大輝!」
なんなんだ、一体!俺すげー喉乾いてんだけど!お前の家の水を奪おうとしていることがそんなに嫌か!
「大、……っ、…おいー…まじかよ」
腕を振り払おうとしたら、一層強く、強く抱きしめられた。びくともしない、骨が軋むぐらいには痛い。
冗談じゃない、なんだこの状況は。とりあえず離せよ、いてーよ!!そう、声にしようとした瞬間。
「もう、置いていかないで」
情けない顔。
いつものアホ顔はどこにおいてきたんだよ。眉、垂れてる。今にも泣きそうな顔、
「俺の傍にいて」
そんな痛そうな顔、初めて見た。
ああ、あー、なるほど、そっか。きっと大輝も俺と同じで、夢の中にいるんだ。ずっとそう、そして前に言っていた『一緒にいたいやつ』とやらと、なにかあったんだな。で、俺とその人を間違ってるんだ。
なあ、どんな人がお前をそんな顔にさせんの?
似合ってねぇ、かっこよくねぇ、でもほら、俺バカだから、首を突っ込むつもりはないけどそういうの全然ほっとけない。
「大丈夫、大丈夫」
大輝、聞こえる?お前の夢の中に、俺の声は届く?
「置いて、行かないで」
繰り返される、切実な声。ふぅ、とため息をついて広い背中を撫でてやる。大丈夫、大丈夫、大丈夫だから、そんな顔しないでもう一回瞼、閉じろ。辛い夢見てるときは、痛くて当然だけど、でも目が覚めたらやっぱりそこには現実しかないんだよ。だから、せめて。
「行かねーよ。ここにいるから」
安心させるように声をかける。
それしか出来ない。それしか。
何度も背中を撫でながら、「大丈夫、ここにいるから、傍にいるから、離れたりしねぇよ」と繰り返す。
背中を掻くように抱きしめられて数分、やっと、大輝の腕の力が抜けた。甘えるみたいにすり寄ってくるデケー男、硬い頬を撫でると、ほんとにやっと安心したのか、腕が離れていく。肩を押してベッドに寝かせると、そのまま寝息が聞こえてきた。
俺と同んなじ、か。
辛いな、悲しいよな、どこにも、行かないで欲しいよな。
大輝短い髪に手を伸ばして、やめた。…俺は、また、何を間違えようとしてるんだ。大輝は愛じゃない、俺が支えてやらないと、なんて、そんなことを思っていいわけがない。きっと俺じゃ役不足で、こいつを救えるのは俺じゃない。
「…今ので、水代はチャラにしてね、おにーさん。」
俺たちはたまたま、ほんと偶然おなじような境遇で、部屋がとなりで、お互いに甘えてなんとか地面に立っている。俺に、何ができるだろう。せいぜい明るい毎日を送ることぐらいしか、出来ないんだろうな。
「おやすみ。」
もう、辛い夢を見てないといいな。
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