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誤魔化すにしおりをはさみました!
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誤魔化す
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どのくらい、トイレで踞っていたのかわからない。
吐き気がようやく治まり、フラフラとした足取りでキッチンへと向かう。
水分だけでも、摂らなければ倒れてしまう。過去の経験で、自分が限界に近付いていることもわかっていた。
「ヒドいな・・・」
キッチンの食器棚のガラスに映った自分の顔を見て、思わず声に出してしまう。
そこに映っていたのは、泣き腫らした虚ろな目と、明らかに痩けてしまった頬の自分の姿だった。
これが鏡でなくてよかった。鏡ならもっと醜い自分の姿が映っただろう。
なんとか、コップ一杯の水をゆっくりと時間をかけて飲み干し、フラつく頼りない足を踏みしめながら、また部屋に戻った。
*****
あの日から、三日が経ち、世間は何事もなく週末を迎えていた。
こんなに苦しくても、生きていけるものなんだな。
不思議で、笑えてくる。
あれから、アキラはほとんど家に帰ってこない。
急なバイトで忙しくなった、とメールが入ったが、それが本当かどうか確かめる術もなく、かといって以前のように全てを信じることはできなかった。
できたことは、無理しないように、と簡素なメールを送ることと、信じたフリをすることだけだった。
アキラと向き合わなくては、そうはわかっていながらも、勇気はでない。アキラは誤魔化すのだろうか、それとも開き直るのだろうか、どちらにしても事実は変わらない。あの、一瞬見せたアキラの表情が全てを物語っていた。
アキラは浮気を、した。
もしかしたら、浮気ではなく、心変わりなのかもしれない。アキラが帰って来ないのがその証拠なのかもしれない。
暗い考えに囚われる。
アキラが抱く見知らぬ人間に、狂いそうなくらいの醜い嫉妬を覚え、頭がおかしくなりそうだった。
俺は、どうすればいいのだろうか、どうしたいのだろうか。別れると言われたら?
別れたくないと、すがり付いてもいいのだろうか。別れるなんて、無理だ。考えただけで胸が張り裂けそうだ。
アキラの裏切りを許せない自分もどこかにいて、もし別れないとしても、今までのようにアキラを愛せるのか、わからない。
心がバラバラに砕けてしまいそうだった。
また、吐き気がしそうになり、慌てて考えるのを止めようとするが、もう遅かった。
トイレで、便座を抱えて胃液を吐き出していると、突然アキラが帰ってきた。
早く出て行かなければ、吐いているのがばれてしまう。そう焦るも、止められるものではなく、アキラがトイレの前に立つ気配がした。
「大丈夫か?」
返事をしようとした瞬間に沸き上がった、強烈な吐き気を抑えられず、またしても便座を抱え込む羽目になる。
気付かれた。
こんな醜い部分を知られてしまった。
絶望に目の前が暗く、霞んでいく。
数分後、やっとトイレから出てきた俺を迎えたのは久しぶりに会うアキラのニヤニヤ笑いで、懐かしさに胸がきゅっと締め付けられた。
「つわり、ってわけじゃなさそうだな、・・・大丈夫なのか?二日酔い?」
冗談を引っ込めるくらい、今の自分は酷い顔をしているのだろう。
「ん、まぁ、そんなとこ」
アキラの顔が不安そうに歪むのを、これ以上見ていられず、吐いていた理由を知られるのも嫌で、咄嗟に誤魔化し、自分の姿を晒すのが嫌で、俯く。
アキラの顔が見えなくなって安心すると同時に、どう行動すればよいのか、俯いたままで固まってしまう。
嫌な沈黙が流れた。永遠とも感じられたその沈黙を破ったのは、アキラの長いため息だった。
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