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景品 2にしおりをはさみました!
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景品 2
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ソファに寝そべっている木宮先輩の動きに目を配らせながら、時折こっちの作業の進み具合を確認してくる北浦。
作業はあと少しで終わりの所まできていたので、すぐに完成した。
《終わりか?》
コクンと頷くと、俺の手からキーボードを奪い取り、また仕事してましたというスタイルに戻る。
なんかだんだん滑稽に見えてきた。
カップの置かれたトレーを持って現れた相楽先輩に、ここぞとばかりに笑いかける北浦。
「相楽、終わったぞ」
「早いですね。ちょうどお茶入れたんでこちらにどうぞ。白川くんも」
「あぁ、ありがとう」
「…はい」
「ほら、明良起きて。座れない」
ソファに寝転んでいた木宮先輩が起き上がり、相楽先輩がその横に座った。
「相楽が入れた紅茶を飲めるなんて、嬉しいよ」
「ありがとうございます」
超ナチュラル笑顔ので対応する相楽先輩とエセ爽やかで繕う北浦。
なんか疲れるぞ、この空間。正直お茶飲む気になれない。ちっとも休憩した気になんない。
木宮先輩も同じことを思っているのか早々に紅茶を飲み干し、チラっと相楽先輩を見てから俺へと視線を移動させた。
「…ねぇ、しろっち。俺と一緒に先生んとこ行かない?今年の宿泊研修の内容のプリントもらいに」
「…行きます」
「いってらっしゃい」
相楽先輩は笑顔で俺達を見送った。
生徒会室から離れて数メートル。木宮先輩がはぁーっと深いため息をついた。
「あー、息つまる。祐輔、嫌いな奴ほど笑顔で接するからよっぽど嫌いなんだな〜」
そう言って職員室がある下に向かうんじゃなく、階段を上へ上がっていく。
「職員室に行かないんですか?」
「ん?あぁ、あれは逃げ出す口実。もうとっくに貰ってあるよ、プリントは。
口実なのは祐輔も分かってる」
「そうだったんですか」
「しろっちも祐輔の笑顔の裏に気づいてんだろ?居心地悪そうだったし。しばらく逃げよー」
ニッ笑う木宮先輩に着いていくと、屋上へ出た。
「んーっ!気持ちぃ~」
暖かな陽射しと、心地好い風。確かに気持ちいい。
壁にもたれかかるように座る木宮先輩の横に、俺も腰を降ろす。
「ね、しろっちが全部やったんでしょ?仕事」
意外だった。まさか、木宮先輩が気づいてたなんて。寝てたわけじゃないのかな?
「ホント、セコい男だよねぇ。二人きりの時にもいろいろ言われたんじゃない?」
「…はぁ、まぁ」
「ま、今頃祐輔が撃退してるよ。笑顔で」
笑顔で、ってところが、うん。
「想像がつきますね」
「アッハッハ!だよねぇ。狐と狸の化かし合い?この場合、祐輔が狐かなぁ」
「狐の圧勝ですね。あの笑顔に誰も勝てる気がしないです」
「アハハっ!ホント、ホント」
口を開けて豪快に笑う木宮先輩。この人の笑顔は裏がない。感情に素直な人なんだろう。
「あー、やっぱしろっちおもしろい。祐輔の笑顔の裏に気づく人ってあんまりいないんだよ?
それに隆盛に食ってかかる奴も。珍しくて、見てて飽きない」
「…もしかして、俺興味持たれてます?」
「うん」
即答。興味持たなくていいです。
「…全力で気づかないフリします。会長にも、口答えしません」
「アッハッハ!今さら無理無理~!俺も祐輔も隆盛も、もうしろっちのこと気に入ってるもん」
笑い上戸なのかお腹をかかえて笑っている木宮先輩を横目に見ながら、俺は木宮先輩の言葉にドキンとした。
リュウ…も?
気に入られる要素がどこなのか分からないし、気に入られてる事実に愕然としたのに。
なんだ、このムズムズは。
考えてこんでいると、顔に陰がさした。
「加えてこんな美人さん。なんで隠してんの?」
木宮先輩の手が、俺の前髪を上げていた。
「…あんまり目立ちたくないんです」
「まぁ、その容姿じゃぁ人の目を引くかぁ。でも、しろっちってもう十分有名人だけどね」
「…不本意です」
するとクスクス笑いながら、前髪から手を離した。
「ま、隠すも隠さないもしろっちの自由だけどねー。でもたまにはその顔拝ませてね?目の保養に」
ニヒヒと笑う木宮先輩。なんだか憎めない人だなぁ。
しばらく屋上でのんびりしていると、木宮先輩の携帯が鳴る。
「お?祐輔だ。もしもーし。ん?おっけ。戻る」
携帯をポケットにしまうと、俺を見た。
「先輩帰ったってさ。戻ろっか」
「はい」
「おかえり」
「たっだいまぁ」
相楽先輩はパソコンに向かって作業をしていた。木宮先輩は自分の席に座り、パソコンを起動させる。
俺も同じように席に座ってパソコンを起動させた。
「なんて言って撃退したのー?」
「ん?
¨最近俺達に取り入ろうとする人が沢山いて困ってるんです。だから色んな処置を考えてるんですけどね。
あ、だから北浦先輩みたいな方で良かった。北浦先輩はセコい手を使おうとしたり、卑怯なマネはしないですもんね?
そんな人だったら、学園に居られなくなるぐらいに徹底的に追い詰めなきゃいけなくなる。本当、北浦先輩で良かったです¨
って言っただけだよ」
「…笑顔で?」
「うん、勿論」
ふふっと無邪気に笑う相楽先輩。
「…こわ。」
思わずつぶやいた木宮先輩に、俺も無意識に頷いてしまう。
ストレートに威嚇されるより、笑顔で牽制される方が恐い。追い詰めるって…恐すぎ。
「前から近づこうとしてたのは分かってたし、鼻っ柱折ってやっても良かったんだけどね。
あの人無駄にプライド高いから、面倒臭いし。有効な方法をとったんだよ」
あー、スッキリした。
そう言った相楽先輩の顔は、それはそれは素敵な笑顔だった。うん。
翌日も翌々日も、逃げきった1年と食堂で昼食をした。
いずれも、猫なで声で愛想を振りまき、俺に送られる辛辣な視線。
そのうち穴が開くんじゃないかなんてしょーもない心配をしながらも、いちいち気にせず俺はマイペースにご飯を食べた。
そして4人目となる次の日。
食堂の指定席に座っていたのは、一人ではなく三人だった。
その三人は食堂の視線を集めている。
「あ、会長サン。俺ら一気に三人でもいいっすか?」
そう声をかけてきたのは、茶色い髪にやけに甘い顔立ちをした生徒。こいつは、確か一色葵(イッシキアオイ)だったっけ。
「いいよ。ね?隆盛」
「あぁ」
「せっかくだから、交互に座りませんか」
そう提案したのは高遠肇(タカトオハジメ)。短めの黒い髪を無造作に立たせ、凛々しい顔つき。
高遠と一色が立ち上がり、ひとつずつ空席を作り座った。
あけられた空席に俺たちがそれぞれ座り、円形テーブルを囲む。
人数の関係でリュウと相楽先輩が隣合って座り、リュウの横には高遠、相楽先輩の横には一色。
高遠の横に木宮先輩、一色の横に俺。
そして俺と木宮先輩に挟まれる形で座る残りの一人が、声をかけてきた。
「足、大丈夫か?」
綺麗なハニーブラウンの髪、近くで見た瞳は右が金、左が銀色というオッドアイ。
顔は高校生か?と疑うぐらい童顔だ。
こいつは町田奏(マチダソウ)だよな。俺はじっと町田を見る。不躾すぎる視線に嫌な顔をすることもなく、町田は笑いかけてくる。
「なんだ?」
「あ、いや。うん。足は平気。サンキュ」
「試合見てたぞー。お前、すげかったな」
「ありがと」
「こうやって話すのは初めてだな。ま、ヨロシク」
「あぁ、ヨロシク」
挨拶をかわしたところで、昼ご飯を注文する。
この三人は学園では有名人らしい。
古くからある大財閥の次男である一色。
業界No.1である大手不動産会社の三男の高遠。
そして学園では珍しい部類に入る、父は映画音楽作曲家、母は世界を巡るオペラ歌手、音楽業界ではビッグアーティストな両親を持つ町田。
亮平と純がそう教えてくれた。
注文したご飯が届き、今日もひたすらご飯を食べることに集中しようと思っていたのだが。
隣に座る奏や離れている肇や葵から、何故か俺は質問を浴びせられている。
何故名前呼びになったかというと、揃って同じ1年だしこれも何かの縁だから、と半強制的に呼ぶように言われたから。
「なぁなぁ。聖夜って何か運動とかしてたのか?動きにキレがあったからさ」
奏がパスタをフォークに巻き付けながら聞いてくる。
「あぁ。合気道をな」
「へぇ、俺もやってたよ。何段?」
肇が向かい側から声をかけてきた。
「二段。中学のときに辞めたから、それが最終」
「うわ、中学で段持ちとか、すげーね」
奏とは反対側に座る葵が驚きの声を上げる。
まぁ、真吾さんに演じて見せたら、お前五段ぐらいの実力あるよと言われたんだけど、正式じゃないしな。
真吾さんは六段持ちらしい。何者なんだ、あの人。
その後も三人はずっと俺に話しかけてきた。
リュウたちと話さなくてもいいんだろうか…と思いつつも、こうやって気さくに話しかけてくるのは亮平や純以外で初めてなため、俺は少し会話を楽しんだ。
「あ、俺タルト食べよ」
「出たよ、別腹」
「女子の発想だよな」
奏の言葉に葵と肇が笑ながら返す。
…タルト?タルトって、あのタルト?
「…ケーキあんのか?」
「え、知らなかったの?」
「知らない…」
何で教えてくれなかったんだ、亮平、純。
落胆ぶりが顔に出ていたのか、クスクス笑いながら画面を見せてきた。
「あ、聖夜もケーキ好き?これ美味かったよ」
と奏が指差したのは苺やキウイ、メロンなど果物が沢山のったタルト。
…美味そう。
「それ食べる。」
学園に来てから、ケーキなんて食べれてない。
ホントだ、フレンチやイタリアン、和食などの見出しの他にちゃんとデザートの項目もあった。
なんで目に止めなかったんだ俺。もっと早く気づいていれば…。
なんて悔やみつつもやってくるデザートを心待ちにしていた俺の前に、キラキラ輝く果物のタルトが置かれた。
フォークを手に取り一口頬張る。
「…うま。」
甘酸っぱくみずみずしい苺、サクサクの生地に甘さ控えめのクリーム。やべ、マジうまい。
「だよなぁ。ここのケーキ、マジうまい」
隣でニコニコと嬉しそうに食べる奏。
「ありがとう。父に喜んでたって言っておくよ」
そんな俺たちを見てクスクス笑いながら、相楽先輩が会話に入ってきた。
「え?父って…あ、そっか。相楽先輩のお父さん、ここの理事長でしたね」
「うん。それだけ喜んでもらえるなら、良かったらリクエストも聞こうか?」
「え!リクエストだって、聖夜!どうする?」
マジですか、相楽先輩。
なら…
「アイスとか色んなケーキが乗ってるデザートプレートとか食べたい…です」
「あー、それいいっ」
「うん。言っておくよ」
マジですか。
今ならそのキラキラスマイルに好感が持てます、相楽先輩。
めんどくさいと思っていた景品の昼食だったが今日は煩わしい視線もなく、会話も普通に楽しめ、しかもケーキの存在まで知ることができた。
「聖夜っ!一緒にここのスイーツ制覇しようぜっ」
「おう」
このことがきっかけで、この三人とはぐっと距離が近づいた。
後から亮平と純にケーキの存在を聞くと、たまにチョコとかクッキーを食べる程度で、二人とも甘いものはそんなに好きじゃないという…。
そう言えば亮平の部屋には塩っけのお菓子はたくさんあったけど、甘いお菓子はちょっとしか無かったな。
なので奏とは甘いもの大好き組として、より仲良くなったのだった。
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