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夢と絶望にしおりをはさみました!
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夢と絶望
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”──……や……”
声が、聞こえる。
”──…聖夜……”
俺を、呼ぶ声。
”──泣くな”
心地よく響く、低音。
”──ひとりで、泣くな”
あぁ、この声は。
”──泣くなら、俺の胸で泣け”
「──…ゅうせ……」
意識が浮上する。目を開けると、そこには誰もいない。
「………ぁ、……」
薄暗い部屋、重い空気。
───夢、か。
「……っ、」
唇を噛み締め、耐える。
夢。甘い夢。
目が覚めた瞬間、絶望が襲う。
もう、何回見たんだろう。
そしてそのたびに、胸をえぐるほどの絶望が押し寄せる。
ここにきて、一体何日経ったのか。
小笠原はふらっと現れては、俺の髪を撫で、頬を撫で、首筋を撫で、鎖骨に指を這わせてくる。
何かを刻むように、執拗に。
だけど、それ以上の行為はしてこない。
あいつは俺を抱かない。ただ俺の体に指を這わすだけ。
そして、いかに俺が汚れているのか、俺は誰のモノなのか。
繰り返し、繰り返し囁き続ける。
「一体どれだけの男が、君を味わったんだろうね?」
「綺麗な聖夜、だけど君の体は雄を咥えこんで汚れてる」
「汚れたものは、一生綺麗にはなり得ない」
「汚れた君が、誰かを愛そうなんて、おこがましいんだ」
「それに、汚れた君をきっと誰も愛してはくれない」
「だけど僕はずっとそばにいてあげるよ」
「だから、君の心には僕さえいればいい」
「君の心が誰かに奪われるなんて、許さない」
「君は、僕の人形でいればいいんだ」
繰り返し、繰り返し、囁き続ける。まるで呪いのように。
自分が汚れてるなんて、そんなことは自分が一番分かってる。俺は、綺麗なんかじゃない。
この汚れは落ちない、白には戻れない。
だけど。
あいつが俺を好きだと言ってくれた、あの日。
──俺は。
綺麗になりたいと願ってしまった。
白に戻りたいと望んでしまった。
全てなかったことにして、委ねてしまえたら──そう思ってしまった。
隆盛に出会わなければ──願うことも望むことも、なかったのに。
汚れた自分を、こんなにも嫌だと思うことも、なかったのに。
小笠原はきっと気づいてる。
俺が、隆盛に惹かれていることを。
俺が人形になりさえすれば。
従順に言うことを聞いてさえいれば。
隆盛を守れる。
失わずにすむんだ。
まだ、覚えてる。
優しく拭う指先。
抱きしめる力強い腕。
逞しい背中。
安らぐ胸。
そして、温もり。
覚えているからこそ、夢から覚めた瞬間絶望が襲う。
いっそのこと、忘れてしまいたい。そう思えないのが、辛い。
覚えていたい。
忘れたくない。
いくら唇を噛み締めても。
拳を握りしめても。
耐えきれず溢れる涙。
いつか、夢を見なくなる日がくるんだろうか。
──絶望を味わってもいい。
それでも、夢を見たいと思う俺は。
きっと、バカなんだろう──……。
溢れる涙を拭うこともせず、俺は再び目を閉じた。
せめて夢に隆盛が来ることを願って──……。
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