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穏やかな日々 3にしおりをはさみました!
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穏やかな日々 3
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事後処理も落ち着いたらしく、後は人の手に任せられる状況だ、と言った隆盛。
隆盛がソファにもたれかかって座り、俺は隆盛の足の間。
お前はここだって引っ張られた。
俺の膝の上にはマメ。
俺たちはリビングでだらだらと過ごしていた。
そろそろ生徒たちが寮へ帰ってくる時間だなー。
あ、そういや亮平たちに隆盛の部屋にいること伝えてねーや。
メールしとくかな。
そんな事を思いながら、テーブルの上に置いてある黒い携帯を手に取った。
と、そこに来客を告げるベルの音が鳴る。
「誰だ?」
ほんと誰だろ。相楽先輩とかかな?
隆盛が玄関の方へ行き、俺はメールを打ちながら待つ。
リビングに戻ってきた隆盛の後ろには、意外な人物がいた。
「……鷺ノ宮……」
俺と隆盛が並んで座り、テーブルを挟んで俺の向かい側に鷺ノ宮が座っている。
「白川くんの部屋行ったんだけど、居なかったからここかなって」
「何しに来た」
隆盛が鷺ノ宮を睨む。
「んー。謝ろうかと思って」
鷺ノ宮は俺を見た後、頭を下げた。
「ごめん」
「……何に対する謝罪?」
「君を監視していたこと。
ごめんね?まぁ、命令されてたからさ。仕方なかったんだけどねー」
あはっと笑う。
「謝る気はあるのか、貴様は」
あー、うん。俺もそう思った。だけどさ。
「そのことについては、別に謝ってもらわなくてもいい」
「聖夜?」
「あんただって、アイツに言われてやってたことだし」
「そう?そー言ってもらえると──」
「だけど。」
鷺ノ宮の言葉を遮り、見据える。
「亮平たちを……友達を引き合いに出して、あんたの人形になれって脅した。
その事については、謝れ」
「なんだと?どういう事だ?」
「えっとぉ……。白川くん、それは今言わなくてもさ……」
「貴様……聖夜を脅していたのか?」
隆盛は知らなかったようで、鷺ノ宮を睨みつけ顔を怒りに染めている。
「怖いなーもう。すみませんでした!二度と脅したりしません!」
これでいい?なんて確認とってくるあたり、いまいち誠意ってやつがこもってない気がするな。
「やってみろ。二度と太陽を拝めなくしてやる」
「……マジだから怖いよね、君って。
しないよ。敵には回したくないしね」
苦いものを口にしたかのように顔を歪め肩をすくめる鷺ノ宮。
「話しはすんだな。もういい、帰れ」
「え~、もう帰れ?もうちょっとお話しようよ」
「話すことなんかないだろうが」
「そんなことないよ。あ、そうだ。もう大丈夫なの?体は」
鷺ノ宮は俺を見て、俺のお腹辺りを指差した。
「お腹。刺されたんでしょ?」
「……まぁ、大丈夫だけど」
「そ。八澤さんもイっちゃってるよねー。誠也さんの為なら、人だって躊躇いなく殺せるんだもん。
あの人の愛は歪んでるなぁ」
「……愛?」
「あれ?知らなかったの?八澤さんは、誠也さんを愛してるって。あ、家族的な愛じゃないよ?」
家族的じゃないって、それって……。
訝る俺を見て、クスリと笑う鷺ノ宮。
「八澤さんは、血の繋がりがある弟を抱いていたんだ。そういう意味の、愛」
確かに、八澤の執着は歪んでるとは思った。でも、まさか、そこまで歪んだ愛情だったなんて。
「まぁ、あの人も可哀想な人なんだけどね。
母親から虐待されながら育ち、祖父である黒金組組長からは小笠原へ取り入る道具にされて。
父親は我関せず、子供なんて煩わしいだけ。
ある程度大きくなってからは、体を取引の材料にされ、老若男女問わず玩具にされた。
ただ唯一、腹違いの弟だけが、優しくしてくれた。自分を見てくれた唯一の人だから。
だからあそこまで執着したんじゃない?」
「何故そんなに詳しい?」
「組員は案外おしゃべりなんだよ。屋敷内でよく噂してる。
誠也さんだって、似たようなもんだよ。あの人も、親の都合のいいように扱われてきた。
だから、同じ境遇同士、傷を舐めあってたんじゃない?ど?少しは同情する?」
鷺ノ宮は俺に向かってそう聞いてきた。
……確かに、ある意味では、あいつらも被害者なのかもしれない。
大人のいいように扱われ、蔑まれ、歪んでしまうのも、分からないでもない。
だけど。
「同情なんか、しない。どんな事情があったって、あいつらがしたことは、赦されることじゃない。
赦す気もない」
「そう。ま、そうだよね」
鷺ノ宮はその後すぐに、お大事にねーと言って帰っていった。
もしかしたら鷺ノ宮は俺に、八澤と小笠原との間にあった、歪んだ関係を話しに来たのかもしれない。
被害者である俺に、加害者である二人のことを。
「父さん、母さん。遅くなってごめんね」
学園へ戻ってきた次の日、俺は父さんと母さんが眠っている場所へやってきた。
途中で買った花を供える。
両手を合わせ、目を閉じた。
怖くて、父さんに合わせる顔がなくて、ずっとずっと来れずにいた。
──やっと、来れた。
父さん、母さん。
俺は自分を卑下して、未来を諦めていた。
だけど、隆盛は、俺の過去なんか関係ないって。
過去を気にするなら、自分の色に染めてくれるって。
そして、未来が欲しいって。
そう言ってくれたんだ。
父さんと母さんが、俺の背中を押してくれた。
そして、隆盛が受け止めてくれた。
俺、今──幸せだよ。
心の中で、二人に話しかける。
閉じていた目を開け、隣に佇む隆盛を見上げた。
「何を話したんだ?」
「幸せだよって報告」
そう言うと、隆盛は優しい笑みをこぼした。
そして、真剣な顔をして前を向く。
「お父さん、お母さん。聖夜の笑顔は、俺が護っていきます。聖夜をひとりには、させません」
「隆盛……」
隆盛は目を細めて笑い、俺はなんだか泣きそうになる。
「お前がいれば、俺も幸せだ」
あぁ、もう。
俺は隆盛に出会ってから、涙腺が弱くなった気がするよ。
父さんと母さんの所を後にして、俺たちは近くにあったガーデンカフェへとやってきた。
ここら辺一体は緑豊かな自然に溢れ、俺は少し辺りを歩きたいと言ったんだけど、隆盛に却下された。
まぁ、まだ退院したばっかだし、しょうがねーか。
と、それならせめて行く途中に見えたカフェに行きたいと言って、ここに来たワケだ。
天気もいいし、少し暑いけどパラソルもあったから屋外にある席へと座った。
隆盛はコーヒーだけを頼み、俺はケーキセットを頼んだ。
「お待たせいたしました。アップルパイとミルクティーでございます」
「ありがとう」
店員さんにお礼を言って、テーブルに置かれたアップルパイを見る。
横にはバニラアイスが沿えられていて、美味しそう。
「いただきます」
フォークで切り分けたパイに、アイスをのっけて一緒に食べる。
パイは焼きたて、アイスはその熱で溶けて、いい感じだ。
「美味そうに食うな」
喉の奥で笑いコーヒーを飲む隆盛。
「美味いよ?隆盛も食べる?」
一口サイズに切り分けたパイにアイスをつけ、フォークを渡そうとする。
隆盛の手が伸びてきて、フォークを持つかと思われた手は、フォークを持つ俺の手ごと、握った。
そして、クイッと引かれ、そのままパイは隆盛の口へ。
「……!」
「美味いな」
唇についたアイスを、ペロリと舌が拭った。
な、なんかエロい………ってか!それ、あーん、だし!
何してんだよ!なんか恥ずい……。
俺は握られたままの手を振りほどいて、黙々とパイを食べる。
そんな俺を見ながら、隆盛はいつまでも笑っていた。
「疲れてないか?」
「うん」
カフェを出てから、隆盛の家の車で寮へと向かう。
父さんと母さんの所から寮までは車で四時間ほどかかるので、途中ご飯を食べに寄ったりしていたら、帰ってきたのはもうすぐ日付が変わる時間だった。
俺よりもむしろ、運転手さんが疲れたと思う。
そのことを謝っていつも乗せてもらっていることにお礼を言ったら、運転手さんはにこやかに笑って、気にしないでくださいって言ってくれたんだけどさ。
隆盛付きの運転手さんなんだって。
ロマンスグレーの髪の、ダンディーな雰囲気が漂うおじさんだった。
交代でシャワーだけを浴びて、ベッドに潜り込む。
隆盛も隣に寝転んで、ギュッと抱きしめられた。
隆盛の腕を枕にして、見上げる。
「隆盛ー。全然眠くないんだけど」
「そりゃ、あんだけ車で寝てたらな」
俺、車の振動とか弱いんだよなー。すぐ、寝ちゃうし。
「……今日はありがとう。一緒に来てくれて」
隆盛の手が俺の頭を撫でた。
優しく、優しく。
「俺も、お前の両親に挨拶をしたかったしな」
嬉しかったよ。あの言葉。
思い出して、つい頬が緩む。
「……隆盛。俺さ、父さんと母さんに会ったんだ。病院でずっと寝てるとき」
俺はあの時見た不思議な夢を話す。
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