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錦繍にしおりをはさみました!
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錦繍
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あれから、三日という時間が流れていた。
伯岐の部屋が、すっかり私の居場所になっている。
庭を眺めながら伯岐は楽しそうに自分の詩を吟じている。それを眺めながら、私は淹れさせた茶を口に含む。
伯岐はたった三日の間で沢山の詩を作っていた。陰惨な血雲の詩らしくない、もっと情景豊かで明るい詩。伯岐の内面の変化を表しているかのようなものだった。
うちに来て最初の詩を世に出してみたのだ。好事家はあまりの変わりように驚き見向きもしなかったが、芸術家たちは感嘆の声をあげているらしい。詩の大家に評価され、書の名手に書き写されたものが既に出回っていると聞いた。
「ああ、伯岐。今日は客人が来るから」
「えっ!?」
そう、大変不本意だが今日は季丹殿を邸に招いたのだ。符の礼にはきっとこれを求めていたのだろうから、仕方なく、だ。
「それと、叔成も呼んでおいた。客人も含めて皆で講談でも聴こう」
「また聴けるんですか……!」
嬉しそうに眼をきらきら輝かせている。伯岐の詩を披露させたくないがための苦肉の策なのだが、これで伯岐が喜んでくれるならそれで構わない。伯岐の詩をその口から聴くのは、私だけでいいのだ。いくら季丹殿が恩人でもこれだけは譲れない。
「お客様がいらっしゃいましたが」
「こちらに通しなさい」
「かしこまりました」
季丹殿が来たらしい。伯岐に手招きして膝の上に座らせる。華奢な身体を後ろから抱き締め頭を撫でると恥ずかしそうに俯いた。もう、本当に可愛くて仕方がない。
扉が開き季丹殿が入ってくると、伯岐は私の腕の中から抜け出そうともがいたが当然逃がすはずなどない。小声で抗議してきたが笑って受け流す。
これは伯岐が私のものだと季丹殿に示したくてやっているのだ。
「やあ、仲影殿。……そんなにむきにならなくとも、小生は別に血雲を奪おうなどとは思ってはいないよ」
「……どうだかね」
「我ながら信用のないことだ」
くすくすと笑った季丹殿はまじまじと伯岐を見つめている。少々伯岐は不安がっているのか、私の腕をきゅっとつかんでいた。
「はじめまして、その……」
「小生は左丘季丹。はじめまして、血雲殿。しかし本当に美しいな。仲影殿がこれだけ執着するのもわかる」
「季丹殿」
「ははは、そんなに警戒しなくてもいいだろうに。心配しなくとも、血雲殿にはきっと仲影殿しか見えていまい」
「……っ!?」
伯岐が真っ赤になって縮こまろうとする。恥ずかしくて仕方ないのだろう。
……しかし、これは肯定と捉えていいのだろうか。私に好意を寄せてくれていると、考えてもいいのだろうか。
「そうだ、今日は講談師を呼んだんだ」
「それはいい。……しかし、そんなに聞かせたくないかね、血雲殿の詩を」
「っ季丹殿!」
どうやら私の策はばればれだったらしい。まあ確かに、季丹殿相手に策を弄した自分が愚かだった気もする。大概の事の先を読んでしまう季丹殿は、そのせいかどこにも与しない。戸部はどこの派閥にも与せず孤高の立場を保っている。
「それで、季丹殿、なにか聴きたい演目はあるかな」
「特には。血雲殿が聴きたいものでいいんじゃないかな」
「それじゃあ、この間の続きでいいかな」
使用人を呼ぶと、叔成を連れてくるように命じる。伯岐が目を輝かせて講談の続きを楽しみにしているのが可愛い。
結局ずっと私が伯岐を離さなかったのを、季丹殿のみならず叔成にまでからかわれる羽目になることを、この時の私は知る由もなかった。
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