アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
湊泊にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
湊泊
-
月光の下で口付けを交わしてから、また一緒に抱き合い眠った。何時もよりも肌のぬくもりを意識してしまって、なんだか気恥ずかしい。
はじめて交わした口付けは、夢みたいに幸福なものだった。頭がぼうっとして多幸感に包まれて、もっとしていたくなる。寝台の上でも口付けをたくさんしてくれた。
けれど、それ以上を求められることはない。仲影様はあの時、どんな好きかと問うた。私は答えられなかった。
……待って、くれているのだ。私のすきが、どんなものなのか私自身がきちんとわかるまで。
仲影様が碁盤を持ってきた。一局打たないかと言われ、喜んで応じて碁盤の前に座る。
ぱちり、と音を立てて石を置いていく。
「……暫く、添い寝はやめようか」
「えっ……!?」
少し驚いて仲影様を見ると、普段とは全く違う表情をしていた。もっと、なにか危険なものを感じさせられる顔。
「自分では我慢強くて気長な方だと思っていたが、どうもそんなことはないらしい」
そう言って、仲影様は苦笑した。碁石を指で弄びながら私が打つのを待っている。
「君がちゃんとすきが説明できるようになるまでは、やめよう。君を傷付けたくはないんだ」
「……はい」
「あまり残念そうな顔をしないでくれ。私が悪い大人みたいじゃないか。……勝負あったね」
「えっ……あ!」
いつの間にか盤面は圧倒的な仲影様の勝ちになっていた。どうも私は詰めが甘いらしい。序盤はよかったのにと言われ、私のせいかなと聞かれて、何も言えなくなる。本当に仲影様はずるい。
石を片付けていると、扉が叩かれた。
「お客様が……」
「ここに通してくれるかな」
「かしこまりました」
扉が開かれ、入ってきたのは仲影様とは似つかわしくない、荒っぽい男だった。怖くなって仲影様の影にかくれると、仲影様は私を撫でて怖がる必要はないと囁いてくれた。
「鄭大兄。久しぶりだな」
「あまりここに訪ねてくるなと言ったはずだが」
「また随分高そうな餓鬼を買ったんだなァ」
「言葉が過ぎるよ」
棘のある仲影様の物言いに、男は怯えたような目をした。いつものあの優しい仲影様ではない。それが怖くて少し離れると、面白くなさそうに強く私を抱き寄せた。
「彼は管瑯。この辺りのごろつきたちの元締めだ」
「随分怯えてるみたいじゃねぇか。ま、あんたは魔王で……」
「聞こえなかったのかな。言葉が過ぎるよ」
管瑯と呼ばれた男は怯えたように押し黙る。魔王とは、表での仲影様の渾名なのだろうか。私に見せなかったその姿は、冷たくて怖い。
「それで?何の用なのかな?わざわざ出向いてきて」
「うちの管轄に入ってる野郎共じゃあねぇんだが、五人ほど殺されてな。手口が鮮やかで、殺ったのはおそらく斬撃に長けた剣の使い手。山ん中で袋叩きにしようとして失敗して返り討ちにあったんだろうが、そういう芸当のできる野郎に心当たりはないかと思ってな」
仲影様は私を撫でながら思慮をめぐらせているようだった。
「知らないな。だが、随分物騒になったものだね」
「あんたのところにも情報はねぇか。あんたも気をつけな。私兵もあんまりいねぇみたいだし」
「そうだね、考えておこう。話はそれだけかな?」
至極鬱陶しいと言わんばかりの声。管瑯はあわてて席を立った。
「ああ。じゃあな、鄭大兄」
それだけ言ってそそくさと扉から出て行く。ぱたりと扉が閉まると、仲影様はにこにこと優しく笑いかけてくれた。
「ごめんね、無粋な輩を入れてしまって」
いつもの、いつもの仲影様だ。胸がいっぱいになって、きゅっと抱きつくと何時ものように抱きしめてくれた。
大人だから、見せられないような裏がある。それはわかっていたけれど。
抱きしめられながら、なぜか震えがとまらなかった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
20 / 68