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浸食にしおりをはさみました!
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浸食
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いつになく曇った様子だった伯岐は、やはり瑤元の言葉が心に引っかかっていたらしい。早めに気づくことができてよかった。世間にどう謗られようが、私の隣にいるべきなのはやはり伯岐なのだ。
伯岐には今日は早めに寝るように言って私は書斎にこもった。
……笑いと歓喜がこみあげてくる。伯岐は私を、はじめて褥以外で恋人として呼んだのだ。伯岐の前ではなるべく包容力のある大人でいたいから、この感情は秘しているのだが。
少しずつ、少しずつ私が伯岐の心を染めて行っているらしい。その事実は私を満足させるに十分すぎるものだった。
無垢で真っ白な伯岐が、私の色に染まっていく。浸食していくそれはどんなふうに伯岐を変えるのだろうか。とても楽しみである。酒のせいだろうか、よこしまな想像が私を支配している。
魔王と呼ばれる私の傍らで、美しく真っ白な一対の翼を持って無垢に笑っていた伯岐は突然、白い羽根に覆われる。羽根がすべて地に落ち、嫣然と笑う伯岐のその背にあるのは艶やかな三対の漆黒の翼。私の隣に寄りそうべき魔に堕ちた伯岐の唇を奪う。
そんな想像に思わず口角が上がる。
伯岐は私の事を優しい大人だと思っているだろうが、私の本質はきっと魔にちかいものなのだろうと思う。今の私は父と兄を犠牲にして、だからこそこうして魔王と呼ばれながら裏の社会に君臨している。
なかなか、伯岐は強敵だった。私が惚れてしまったせいもあるだろう。欲しいものは権力や財力で手に入れてきたが、初めてそれだけでは手に入れられないものに直面した。お互いに擦れ違い、自我を失いかけるまで自信を失ったこともあった。
愛の力、とでも言えばいいのだろうか。疲れ切った私を寸でのところで救った伯岐とようやく想いが通じあい、肉体的に結ばれることができたのは天命だと私は思いたい。どこぞのすべてお見通しな呪術師……は、この際おいておこう。それも天命のうちだ。
長義が描いた伯岐の絵を、もう一度眺める。天女のような無垢な微笑みを浮かべている。このままの、無垢な伯岐でいてほしいと思う己がいるのも、また事実ではある。しかし、やはりこの絵はどう見ても女性を描いているようにしか見えない。本当に、その前に想像で描いた美人画ではなく目の前で見て描いたものなのだろうか……。
絵を棚にしまい、琵琶を手に取りかき鳴らす。
弾いている間は、音を追うだけで無心になることができる。
随分長いこと考え事をしてしまった。今日は眠くなるまで弾いていようか。
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