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-黒澤side30-にしおりをはさみました!
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-黒澤side30-
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翌日、片井のアルバイト先であるマイクドナルドへ話を聞きに行く予定であったが、当事者である柳原が1時限目早々から保健室で休んでいると白鳥先生から話を聞き、空き時間に保健室へと向かった。
「失礼しまーす。柳原~大丈夫なのかお前」
「あーサボりっすよサボり~」
ヘラヘラといつものように笑いながらそういうものの、マスクの上からでも分かるほど顔色は相当悪く、白鳥先生の眉間にもシワが寄っている。
「真尋ちゃん嘘つかないのっ。本当に気分が悪くて来たんでしょ?」
「俺演技派だからさぁ、みんな騙されてやんのーっ。じゃあまぁそういうことにしとこっかなぁ~あぁ気持ち悪い~しんどい~動けなーい」
そう言いながら柳原は掛け布団を頭の上まで被って隠れてしまった。
……こいつの腹の中は本当に分からない。
白鳥先生は全く動じず慣れた様子で、小さくため息をついて話し始めた。
「クロちゃん申し訳ないんだけど、真尋ちゃん冗談とかじゃなくて本当に立てないくらい具合悪いのよ。今日の話し合いはとりあえず片井くんだけでお願い出来るかしら?」
「あぁそうか……それなら仕方が無いな。任せても大丈夫ですか?」
「帰らないって聞かないんだけど…とりあえず家まで送るわ。校長には伝えてあるから。」
「分かりました。……柳原、あんま無理すんなよ。」
へいへーいと空返事をしてヒラヒラ手を振る柳原。それを見て白鳥先生はいつに無く険しい表情をしていた。
……それから俺は放課後に車を出して、マイクドナルドへ向かった。一緒に車で行くかと片井に聞いたが、家がすぐ傍なので自転車で先に向かいますと断られた。
あいつもあいつで表情一つ変わりゃしねぇし、腹の中は全く分からん。……そういう意味であいつらはよく似ているのかもしれない。
「しっかし片井も典型的な人間嫌いそうなのに、よくこんなところで働こうと思ったな……てか医者の息子なのにバイトなんてする必要あんのか……?」
聞きたいことは山ほどあるが、今日はあくまで事情聴取だ。……てきとーに話聞いててきとーに校長に報告書上げて、さっさと帰ろう。
ズボンに手を突っ込みながら入口でキョロキョロと辺りを見渡していると、店内の奥の方から片手を挙げて誘導する片井の姿が見えた。
チーフ……とか言ってたな。その人はどうやらもう既に座って待っていてくれたらしい。律儀な人だ。
どんな人なのだろうか……と最初は本当に軽い気持ちでしか考えておらず、挨拶をしようと名刺を胸元から出そうとした。
強面のじぃさんとか出てきたら嫌だなぁ…とかそんな呑気なことを考えていた数秒前の俺に、この状況をどう説明しようか。慌てて立ち上がったチーフさんと同時に顔を見合わせて固まった。
……時が止まったようだ、とはこういう時に使う言葉なのだと思う。
「…あき、ら?」
「えっ…おんちゃん先生?」
そのチーフの正体は、7年前に突然消えて、俺の人生をめちゃくちゃにしてくれた玉置明だと判断するまでに、そう時間はかからなかった。
……感動の再会、とはいかなさそうなさそうだ。
「お前…今までどこへ行ってたんだよ!!元気にしてたのか?音信不通になったと思えば行き先も伝えずに引越しやがって…どれだけ心配したと思ってんだよ!!!」
「…っ。」
明の顔は一瞬にして青ざめ、俯いたまま沈黙してしまった。眉間にしわを寄せて一向に目を合わせようとしない。
……ああ、そんなに会いたくなかったかよ。
「あの…知り合いですか?」
「あー…うん!高校の時僕の担任をしてくれてた先生。久しぶりでつい驚いちゃったなぁ。」
「さっきの質問の返事は無しか!?俺はずっとお前のことを探してたんだぞ。」
柄にもなく声を荒らげて胸元を掴むが、明は片井の方を見て思い出したかのように冷静に口を開いた。
「それよりも昨日のことについて話しませんか?…僕も仕事がありますし何より片井くんが待っているので…奥の事務所に来てください。」
そう言って目も合わせずに奥の事務所へと早足で行ってしまった。
…なんで、なんでだよ。
「明!!っ…片井、取り乱してしまってすまなかった。気にしないでくれ。」
「い、いえ。大丈夫です。」
イライラを収めようと髪を粗雑に掻き回してからため息をつくと、困惑している片井を連れて明の後についていった。
結局の所、警察沙汰にはなったものの、柳原は相手に手を出していないということや片井の対処についても特に大きな問題になることはなかったとのこと。一件落着だな、と表向きで笑ってみるが、嫌な空気が二人の間を抜ける。……片井も何かを察したのか、早々に席を立った。
「じゃあ俺、帰りますね。」
「おう!片井……時間取らせて悪かったなぁ。」
「…お疲れ様。気をつけて帰ってね。」
そう言うとあの頃の優しい笑顔で、明は片井に手を振った。
「…あ…明。」
「お久しぶりです。お元気でしたか。」
「……まぁそれなりに。お前は、どうなんだ。」
「……元気ですよ。お気遣いありがとうございます。暑くなってきましたから黒澤先生も身体には気をつけてください。……ではこれで。」
全く目を合わせずに淡々と話して立ち去ろうとする明の手を咄嗟に掴んでしまった。
……ずっと、探してたんだ。ここで下がったら本当にもう終わりな気がする。
「なぁ!!今日仕事の後時間ないか?……ちゃんと話がしたいんだ。」
「すみませんが絵の仕事もあって忙しいんです。それに、もう僕から話すことは何も無いです……では。」
「おいっ!明!!!待てって!!」
「店内で大声を出さないでください。教師ですよね。それくらい察してください。」
明とは思えないほどの冷たい視線と吐き捨てた声。……俺はあまりにもショックで、暫くその場から動けずにいた。
……これで、本当に終わりなのか?
お前は俺のこと……好きだと言ってくれたのは嘘だったのか?
もうあの頃の笑顔を、俺には向けてくれないのか?
立ち止まっていたのは、俺だけだったのか?
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