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-白鳥side37-にしおりをはさみました!
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-白鳥side37-
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翌日、黒ちゃんはと言うと私の顔を見て不安げな表情はするものの、クラスメイトの問題が一斉に降り掛かってきていてそれどころではなさそうだった。いつもの教師の顔に戻って、メキメキ業務をこなしている。……ちょっとホッとしたわ。
とりあえず計画通り進んでいることだけ伝えて、私は任務を続行した。
再度、深夜帯にマイクドナルドへ足を運ぶと、今日も明ちゃんは出勤しているようだった。洗濯したハンカチを握りしめて、恐る恐るレジの方へと向かう。
「いらっしゃいま……あっ、昨日の!」
「こんばんは。……恥ずかしいわね。昨日は取り乱しちゃってごめんなさい。それにこれ持って帰っちゃって。洗濯はしたんだけど……。」
「そんなそんな!お気遣いありがとうございます
。」
明ちゃんは嫌そうな顔1つせず、ハンカチを両手で受け取ってくれた。今日も今日とて神対応。ああ……もうほんとにオンナ心くすぐられちゃう。
「何もお返し出来なくてごめんなさいね。今日もなんだか帰りたくないし……ここでお茶していくわ。」
「そう、ですか……。」
落ち込んでいる風に大きなため息をつく。……自分で言うのもなんだが、なかなかの女優っぷりだと思う。ドリンクだけ頼んで、お会計を済ませようとしていると、明ちゃんはメニューの右下を指さして話し始めた。
「うちのメニューなんですけどね、無料で頼めちゃうモノがあるんですよ?ほら、ここ見てみてください!」
「……スマイル、0円??あら、素敵ね。あなたの笑顔が貰えるの?」
「飛びっきりですよ?ドリンクのセットで、スマイルいかがですか?」
ずっきゅーん。えっ何、これは口説かれてんの私?!……何だかこんなに優しくされたのは久しぶりで、演技でもなんでもなく目に涙が溜まってきた。私、優しさにめちゃくちゃ飢えてるわ。
「じゃ……じゃあ、スマイル貰おうかしら。」
「はいっ!」
明ちゃんは、出来上がったホットコーヒーと一緒に、満面の笑みでこちらを向いた。
……ここが女子高生の溜まり場になってる理由、間違いなくこれね。下手にホストへ行くよりも待遇いいわ。
「ありがとう。……お仕事は何時まで?」
「僕ですか?今日はあと30分位で終わりです。」
「……なら、この後ファミレスで少し話しませんか?」
「……えっ。」
流石に早とちりしたかしら。明ちゃんは目を真ん丸にして私の方をじっと見つめる。
大丈夫よ……ホテルに連れてったり、獣みたいな事はしないから。そう、ダメよダメ。しっかり理性を保つのよ尚生。明ちゃんは元生徒。黒ちゃんの想い人。忘れるな……。
「いいですよ。僕でよければ。」
「……えっ!?……ほんとに?」
「少しだけ待っていてくださいね。早めに終わらせられるように頑張ります。」
昔の明ちゃんは、人付き合いに慣れていなくてとても警戒心が強く、ナヨっとしたイメージだったため、まさかこんなにあっさりと承諾されてしまうなんて思ってもみなかった。……でもまぁ、女性(違うけど)と二人きりで食事に行けるのなら、交際相手は不在かしらね。何だかあっさりと作戦③まで来てしまい、拍子抜けする。
ーーそれから約束の時間になり、私は先に店を出て駐車場で待っていた。
「お待たせしました!……行きましょっか。」
「ええ。急なお誘い大丈夫だったかしら。」
「今日はこの後仕事もないので構わないですよ。」
「あら…他にも仕事されてるの?」
「はい。……実はこれでも絵描きの仕事をしていて。本当はそっちが本職なのになかなか生計立てるのが厳しいんです。えっと…この車です!乗ってください。」
絵を描くことは今も辞めていないと知って、私は内心物凄くホッとした。黒ちゃんだって、絵を描いている明ちゃんの事が一番好きだったことを覚えてる。画家なんてひと握りの世界なのに、やっぱりこの子は才能の子だったのね。
軽自動車の助手席に乗せられながら、近くのファミレスへ向かった。その間、明ちゃんは全く緊張した様子もなく、自ら話題を持ちかけてくれたりして、変な言い方をすると女慣れしてる印象だ。……なんだか先生寂しくなっちゃうわ。
店内に入ってからは、私の世間話をひたすら聞いてもらい、ついつい時間を忘れて話し込んでしまった。明ちゃんは、ちゃんと私に合わせて一喜一憂の表情を見せてくるし、相槌も絶妙なタイミングでうってくれる。本当にいい子なのがわかる。
それから話は仕事の内容になり、私は名前を伏せて黒ちゃんの話をした。……それなのに。
「……で、その時黒澤先生からはなんて言われたんですか?」
「そうよ聞いて!?黒ちゃんったら、本当に情けないんだから、私に詮索させようなんて……って、ああああああああああああー?!」
一言も黒ちゃんの名前を言っていないのに、今明ちゃんは黒ちゃんの名前を……。あまりにも不意を打たれてわかり易い反応をしてしまった。
こ、これは……作戦失敗だ……。
「い、いつから……いつからバレてたの!?」
「何となく白鳥先生に似てるなと思ってたら、先生が大事にされていたネックレスを今日は付けてたので、間違いないかなって。」
そういうと、明ちゃんはまた爽やかな笑顔を見せた。……なんだかかっこよさよりも隙がなく恐怖を感じるまである。
「はぁ……よくそんなこと覚えてたわねぇ。バレちゃったならしょうがないわ。随分久しぶりね。ほんと大人になっちゃって。」
「そうですか?自分ではそんなに変わったとは思ってないですけど。」
「……なんでしょうね?凄く言動が堂々としているように見えるわ。一人の男性として、素敵になってる。」
そう言うと、ホットティーを一口飲んで、少し困ったような明ちゃん特有の笑みを見せた。
「……もう単刀直入に聞いてくわね?どうして大学に進学する時、音信不通になっちゃったの?」
「ある女性から、黒澤先生に婚約者がいて、僕のせいで婚期が延びていると聞かされたんです。公衆電話からだったので誰かは分かりませんが、その電話を掛けてきた方が本人なんだろうなと、何となく察したんです。付けていた指輪を外すまで、電話は続きました。後をつけられていたんだと思います。」
「そう、だったのね……。とんでもない執念女だわ。」
黒ちゃんも元嫁の話をする時は、独占欲が強くて疲れるってそればかり言っていたわね。……なかなか厄介な女だったってわけだ。
「黒ちゃんは親に強く言われて無理矢理結婚したけど、結局3ヶ月で離婚したの。……明ちゃんを忘れられなくてね。その事は知ってるかしら?」
「……知ってます。でももう僕は黒澤先生と会いません。」
悲しい顔ひとつ見せずに、明ちゃんはサラッとそう言った。まるでもう未練はひとつもないような表情で。
「どうして!?……他に好きな人でもできたの?黒ちゃんは8年経った今でも、まだ貴方のことを忘れられないのよ??」
「恋人は居ません。ただ、黒澤先生のお家柄を考えても、またこの先お見合いがあるのは目に見えてます。僕も黒澤先生も、ちゃんと女性を好きになって、結婚しないといけない。」
明ちゃんは、世間体をかなり気にかけているようだった。だけどその言葉の節々から、黒ちゃんを心の底から拒絶しているようには見えなかった。
「……黒ちゃんの事は、まだ好き?」
「一人の……人間として、好きです。でもそれだけです。」
「じゃあなんでこの間会った時、黒ちゃんに冷たくしたの?……とても好きとは思えない雰囲気だったみたいだけど。」
「黒澤先生が僕に気があるのなら、距離を置かないとダメです。だからもう会えません。」
いい思い出は、いい思い出のまま取っておかないと……と、明ちゃんは目を細めながら窓の外をぼんやり眺めた。
「……あなたの気持ちは分かったわ。じゃあもう黒ちゃんとは会うつもりがないって事ね。」
「はい。そう伝えてください。……久しぶりに白鳥先生と会えて、嬉しかったです。」
社交辞令のように、明ちゃんはそう言って伝票を手に取る。代金はサッと明ちゃんが払ってくれて、本当に最後までレディーファーストだった。
……もしかしたら明ちゃんも、彼女とか居たのかもしれないわね。何となくそんな気がした。
「……最後に連絡先だけ聞いてもいいかしら?」
「白鳥先生とのやり取りなら、いいですよ。」
相変わらずガードは硬いけど、私と話すことに抵抗はないみたい。……少しずつ情報収集するしかなさそうね。
「久しぶりに女性になれた気がするわ。本当にお付き合いありがとう。」
「僕も楽しかったです。懐かしくて。……では、おやすみなさい。」
車を私の家の前に停めると、明ちゃんは丁寧に深々とお辞儀をして、またマイクドナルド方面へと引き返して行った。
明ちゃんが向かった方向は、私達が昔務めていた学校とは逆方向。住む場所も随分変わってしまったのだとわかる。
「過去を忘れられてないのは……黒ちゃんだけなのかしら。」
相思相愛だっただけに、なんだか悲しい。黒ちゃんにはなんて話せばいいのだろう……。
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