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奏里への想い 千夏sideにしおりをはさみました!
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奏里への想い 千夏side
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ぱし、と後ろ手にナイフを掴む手を止められた。
「なに、してるの。
だめだよぅ、人が嫌がることしちゃ、いけないんだよ…?」
怖がりながらも、震える両手で必死にナイフを止めていたのは、涙を目に貯めた奏里だった。
これが私と奏里の、出会い。
その後、何故か私は不問にされた。
奏里が何やら隠蔽工作をしてくれたらしい。
数ヶ月して、車椅子から立ち上がることもしないまま、生きる意味も見つからないまま、中学に入って。
そこには、あの女の子がいた。
「あっれれー?? 千夏ちゃんじゃん!!」
「…お久し、ぶりです」
「あたしの名前、知らないっけ??
あたしは奏里!奏でる里で、かなり!!
仲良くしてね?」
ニッコリと笑う奏里は、あの時とは別人に見えた。
もっと気弱そうな女の子ではなかったか?
「…別人?」
「本人だよ! ま、そう思う気持ちもわかるけどねー。
そっちこそ、活発そうな見た目のくせして陰気!」
「…はっきり言うね」
「ね! ちょっと放課後付き合ってよ!
積もる話もあることだしね。
いいでしょ? ちぃ!」
「…ちぃ?」
「あだ名!」
やっぱり別人にしか見えなかった。
中学デビューとかいうやつなのか?
…そうではないような気がした。
「あの後、どうだった?
ちゃんと解放された??」
「…うん、少年院に送られると思ったのに。
なんでだろう」
「それは、あたしが根回しした」
「……え」
「お父さんがヤクザ?なんだぁ。
なんか、色々あって、継ぐことになっちゃってさ」
「へぇ」
「リアクションうっすいなぁ」
「どうでもいいから。
あいつらもどこに行ったかわからない、
復讐はできない、
生きる意味もない。
何もかも、どうでもいい」
「事情はきいたけどね。そんでさ、」
そこで、奏里はぐいっと顔を覗きこんできた。
「あいつらが、もう死んでるって言ったら、どうする?」
「…は?」
「死んでるんだよ。」
「うそ、でしょ?」
「ほんと。『シロカワ』しか知らないことだけどね。世間的には、行方不明ってことになってる」
「…へえ。
だったら、もう、本格的に、なんで生きてるかわかんないね。
そろそろ死のうかな」
もう、疲れちゃった。
そう呟くと、奏里は私の右手を両手で包み込み、言った。
「……あたしがね、殺したの」
それは、懺悔だった。
「…!!」
「あたしが家に持ち込んだ問題だったから、あたしが始末をつけたんだよ。
…ねえ、人殺しのあたしを、どう思う?」
両手が、小刻みに震えている。
「人の人生を終わらせるってことの、罪深さを知ったよ…
なんで、こんなことになっちゃったのかなぁ…?」
そこにいたのは、紛れもなく、出会ったときの気弱な『城川奏里』だった。
「耐えきれないよぅ、あたしは、あんなこと、したくなかった。
ああすることの意味を、わかってなかった」
暖かい雫が、こぼれ落ちて手に当たる。
何故かわからないけど。
___この子が、壊れちゃう。
そんな予感がした。
「…私は、あなたにお礼を言わなくちゃならないね」
「…え、」
奏里は涙に濡れた目で私を見上げた。
「それは、本来私が背負うはずのものだった。
自分も死ぬからいいやって思ってたけど…
あなたは、私を救ってくれたんだね」
「…けっかろん、だよ」
「そうだね」
しばらく、奏里がしゃくりあげる音だけが響いていた。
沈黙を破ったのは、奏里だ。
「じゃあ」
「?」
「あたしのために、生きてよ」
また一雫。
涙がこぼれる。
「あたしはもう、ひとりじゃ生きていけない…耐えきれない…
人を殺した私なんて、生きる資格もないんだよ…っ
でも、あたしは生きたいっ!
守らなきゃいけない人がいるから、支えなきゃいけない人がいるから…!!
でもね、ひとりじゃ、押しつぶされちゃうよ…責任が、あたしには重すぎる。
____だから」
その目は、どこまでも真っ直ぐで。
大きな意志に、満ちていた。
「あたしの生きる、支えになってください」
このお嬢様は、なんてワガママなんだろう。
私が背負うはずの咎を勝手に背負い、そのお礼に、自分を支えろと。
自分が人を守るために、支えるために、自分を守り、支えろと。
「それがあなたの、生きる意味にはならないかな…?」
私は、気付いた。
この子を、守りたい。
支えてあげたい。
____そのために、生きたい。
そう思っている自分に。
「…自分で立つこともできないのに、私にあなたを支えられると思う?」
「…わからないけど、だめ、ですか?」
私は決意して、奏里の手を振りほどく。
絶望。
そんな言葉がしっくりくる表情を浮かべる奏里から目線を外した。
手を車椅子の肘かけに置いて、体重をこめる。
まずは右足。
そして左足。
酷い痛みが走るが、そんなことは気にしていられない。
___私は、久しぶりに自分の両足で立ち上がった。
「だめか、だめじゃないかと言われれば」
強いフリを覚えた、弱い少女。
私はこの子に、一生を捧げる覚悟をした。
「_______最っ高ね」
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