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願う冬 9にしおりをはさみました!
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願う冬 9
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時生さん。
時生さん。
お願いだから────目をあけて。
ピッピッと心音を伝えるはずの機械の音が、リズムよく鳴らない。
機械音のはずなのに、弱って聞こえるのは──気のせいじゃない。
時生さん。
お願いだから。
───生きて。
ピーーーーーーーーーー。
部屋にこだまする、一定の音。
うそだ。
嫌だよ。
ねぇ。
「時生さん──────!」
自分の叫び声で、飛び起きた。
一瞬ここがどこだか分からなくて、混乱する。
暗闇の中、慣れてきた視界に移るのは見慣れた部屋で。
ここは病院じゃなく、自分の部屋。
口から漏れる、荒い息。額に浮かぶ、汗。
両手は震え、心臓が嫌な音をたてている。
────夢。
そう、あれは夢だ。
時生さんは──。
枕元に転がってあった携帯を拾って、メール画面を開く。
上田さんから送られてきたメール。
『時生、目を覚ましたよ。意識もしっかりしてる。このまま大丈夫なら明後日ぐらいには元の病室に戻れるってさ』
受信した日付は、昨日。
時生さんは、生きてる。
生きてるんだ。
時生さんが倒れてから二日、目を覚ました時生さんは、一番最初に「遥は?」と聞いたらしい。
そのことに嬉しさを感じている自分。
そんな自分が、バカみたいだと思った。
このまま大丈夫なら、明日に病室に戻る。
俺は───。
顔を見たい。時生さんの無事を、確かめたい。
だけど、怖い。
あの光景が、目に焼き付いて離れない。
時生さん。
弱くてごめんね。
覚悟もなにも、出来てなくてごめん。
そんな自分の卑屈さにも嫌気がさしていて、今時生さんに会えば…すべての感情をさらけ出してしまいそうだった。
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