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夢幻repeatにしおりをはさみました!
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夢幻repeat
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―忘れようとして 思い出せない。
どこかの芸人の言い種じゃないけれど
あの顔は、もう朧気にしか思い出せない。
けれど。
毎年桜が散るころになると、ザワザワとどこかが落ち着かなくなる。
『吉野。もう、いい加減にしろ。…わかってんだろ!?』
いきなり怒鳴られた。
らしくない、渇いた声。
乱暴に掴まれた肩。
ただ怖くて。
必死に言い返した。
『わかんないよ。何のこと?』
そしたら、フッと手が離れてって
それっきりだ。
―知ってたさ。
ああ、だからそばにいた。
けれど。
おれには、三島みたいな勇気が無かった。
絶対に認めちゃ、いけない気がしたんだ。
あの日をやり直せたら。
何度もそう思って捜した。
でも、もう10年以上音信不通のままだ。
せめて、あの時、何を言いたかったのか
それだけは知りたい。
でも、訊こうにも、その相手が何処にもいない。
開かずに、落ちた蕾は、硬く閉じたまま、おれの中に残った。
うららかな陽射しの中
重い心は更に沈む。
―もう忘れたか。
いつだって、言われた側の方が、何かと忘れないもんだしな…。
そろそろ時効だろ?って自分でも思うのに。
―可笑しいな。
もう誰も、おれをあんな風に引き留めたりしないのに。
暖かい風が吹くと、思い出す。
散り急ぐように花びらが舞うと
あの声が戻ってくる。
2度と戻らないあの瞬間が何度も甦る。
そしてまた
ざわつく心を持て余して
この花の下に佇む。
三島…。
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