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forerunner(予兆)にしおりをはさみました!
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forerunner(予兆)
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目が覚め、顔だけを窓の方へ向けると締め切ったカーテンの隙間から既に登り始めた太陽の光が差し込んでいた。
ついでに時計を見れば明け方近くに眠りに着いてから3時間ほどしか経っていない。隣のベッドには小さな身体が丸まっていた。
しかし、どこか様子がおかしい。寝苦しそうな呼吸音が微かに聞こえる。耳を澄ましてみると、どうやら魘されているらしかった。
白島は起き上がりそっと状態を伺う。息を荒げながら時折呻く姿は以前に見た発作を彷彿とさせた。
普段は別々の部屋で休んでいるためこのような所を見るのは初めてだ。心配になり、テルの眠るベッドの縁へ腰掛け顔を覗き込むが目覚める気配はない。手を伸ばして額に滲む汗を拭ってやると苦しそうな表情がいくらか和らぐ。その幼い寝顔はどう見ても少年そのものだった。
(お前はすぐ情が移る——)
自分の声ではない言葉が頭の中で反響する。まるで心に芽生え始めた同情心を嘲笑うかのようだ。
不意に、テルの唇が震えた。
「…あ…さん……」
掠れているが確実に聞き取れたうわ言は侘しい意味を持つ。ただ事では無い空気に一度目覚めさせることにした。
現実に呼び戻され、薄っすらと瞼を開き朦朧と泣き出しそうに見上げてくる瞳を掌で覆い隠してあやすと、少年は安心したのか再び眠りに落ちた。
「これから、付き合うよ。ナルを捜す」
どうせ休業中だしな、と付け足して白島はテルの向かい側へ座った。ミニテーブルの上へ軽食を並べると相手側へ差し出す。少年は寝起きでぼんやりと眠たそうに白島と机の上を交互に見つめた。
「急ぐんだろ?」
昨日の覗き見まがいの行動を冷やかして促すと、テルは一瞬罰の悪そうな顔で頷きサンドイッチを口に運ぶ。
相手が食べ始めたのを見、白島は手に持ったコーヒーカップを揺らした。
「じゃあまず、お前の持っている手がかりを全部教えろ」
テルはゆっくりと咀嚼した後大きく飲み込む。
「…日本にいること、この街で運び屋をしている、こと……」
「それだけか…?」
得られた内容は先日聞いたことと全く変わらない。
「残念ながら、それは昔の話だ。アイツはもうこの街には居ない」
白島が溜息をつくとテルは二つ目のサンドイッチを取る手を一旦止め、些か動揺の眼差しを見せた。その大きな目を確かめるように鋭く伺う。
「まだ知りたい事がある。お前が飲んでいる薬について…」
今朝方、発作のように魘されていた事を告げるつもりは無いが前々から聞きそびれていた事だ。その視線を受けてテルは考え込むように顎を引く。沈黙のあと、意を決した様子でポンチョの中を探りテーブルの上へピルケースを置いた。それには見覚えがあり、過去に一度テルから取り上げたのと同じ物だ。
「これは、体の成長をとめる薬だ。…10年以上飲み続けている」
「…!」
彼が口にしたことは白島も薄々勘付いていた事だが、てっきりテルが何かの病気を患っており、薬はその治療薬だと思っていた。それに加え10年という月日に驚きを隠せない。
テルはケースを眺めながらいつもより強い口調で先を続ける。
「けれど、これからもこの薬を飲み続けることはできない。これが最後のストックだからだ。薬が切れる前に、兄を見つけ出し対抗薬を手に入れる」
「対抗薬とはつまり…成長促進剤」
少年は静かに頷いた。俄かに信じがたい話だがこれでテルの目的がハッキリした。
透明なケースの中身は見るからに残量が少なく、薬が尽きればあの発作を止める術は無くなる。時間の問題だということを納得するしかない。
「でも…なんだってそんな物を飲んでる…?」
テルはそれについて話すつもりは無いと首を振って黙秘した。
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