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witness(目撃者)
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話を聞き終えた白島は一先ず、テルを連れナルの行方を知っていそうな人物の元へ向かう事にした。唯一の心当たりである。
「アイツは、金を蓄える為に運び屋になったと言っていたな」
白島は車を走らせながらぼんやり前を見つめ呟いた。
もう殆ど思い返す事のなかった過去を辿り始める。ナルという人物は、自分と同じく表社会で生きることが出来ない事情を抱えていた様子だった。お互いに仲は良かったものの、深くまでは干渉することはしなかった。身を躱すのがとても上手い男だった。
二人を乗せた車が人気のない通りにある、壁に埋め込まれたような古ぼけた店に着く頃には日が暮れかけていた。
店の屋根に掲げられた「クリーニング」のネオンサインが斜めに傾き不快な電子音を立てて点滅している。店内は明るく、まだ営業中らしい。ガラス扉から伺えるカウンターには、頬杖をついた男が新聞を斜め読みしていた。
「いらっしゃい…」
来客に気づいた店主は奇妙な組み合わせの二人組をサングラスの隙間からジロリと見返した。
「いつぶりやったかなァ?」
わざとらしいとぼけた口調で千坂は白島達に笑いかけた。実に昨日ぶりである。
「今日はワザワザ、どのような要件で?」
「ちょっと、教えて欲しいことがあってな。昨日のついでに聴ければ良かったんだが…」
お前だけが頼りなんだ、と前置きをして白島は声をひそめる。
「ナルのこと、覚えてるだろ?居場所が知りたいんだ。…何か聞いてないか?」
「…。……ほぉ?何でまた、今になって?」
新聞を折りたたんだ千坂は訝しそうに後ろ髪を掻く。
白島は隣にいたテルの頭にぽん、と手を置いた。
「今朝知ったんだがな、こいつの兄貴だそうだ。探してる」
「……エエーッ!?」
ギョッとした顔で千坂は立ち上がるとカウンターから身を乗り出してテルの顔をマジマジと覗き込んだ。
「ホンマなんか…?この坊やが…⁉︎」
頷くテルに千坂は間延びした言葉にもならない声を出す。
「あ〜?確かに…何と無く面影が似てるような、似てないような……?」
「信じられねえよな」
半信半疑と言った様子のまま、掃除屋の男は店先に置いてあった営業中の看板を中に仕舞い、運び屋達を店の奥へと通した。
ハンガーに吊るされた沢山の服の間を通り過ぎ、三人は小さな和室に腰を下ろす。千坂はテーブルに置いてあったリモコンを手に取るとテレビの電源を入れた。画面にバラエティ番組が映し出される。
「確かにナルちゃんとは仲ようしてたからなァ。全く知らんことはないねんけど…」
弟だという少年を未だに疑うような視線で一瞥すると千坂は深く溜息をついた。
「僕もあの子が運び屋を辞めてから一切会ってなかったんや。…あれは去年の暮れやろうか…。いつも通り依頼された仏さんを回収するはずやったんやけど…」
表向きはクリーニング屋の店主、裏稼業は掃除屋を生業としている千坂は流れるテレビの騒音に掻き消されそうな声量で語り始めた。
その時の依頼主はとある組織の構成員で、仲間内で揉めてうっかり殺してしまった死体を処理してほしいとの事だった。現場に到着すると、そこにはまだ依頼主達がいた。しかし、突如現れた謎の男達が依頼主諸共を襲撃し殺してしまった。
どうやら同じ組織内の人間では無いらしい。
——そして、集団の中にナルが居た。
彼は千坂に気がつくなり「こいつらは俺たちが始末する」と一言告げ仲間の面々と姿を消した。
「最初殺し屋になったんやと思ったが……」
後日、依頼主達の事が週刊誌の片隅に載っていた。
『——〜組内部闘争か——』
「その少し後に耳にしたんや、この不可解な出来事がキッカケで本当に組織で内部闘争が始まって、すぐに壊滅したっちゅう…。いくらなんでも漏らすもんやあらへん…あれは、無差別の同業者殺し…。」
場の空気に緊張が走る。掃除屋は自身の色褪せた栗色の髪を指先で弄りながら表情を渋めた。
「輩の出処は謎やで。どこに雇われとるのかは分からん。あの中に偶々ナルちゃんがおったから、俺は情けをかけて貰ったような気がしてなぁ…」
運び屋から目を離した千坂は再びリモコンを握りチャンネルを変えると少し声を大きくした。
「探すの、今はやめておいた方がええと思うが…」
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