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memory3(回想)にしおりをはさみました!
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memory3(回想)
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母親の葬儀が終わった夜、響介は騒がしく鳴り響く銃声で目が覚めた。隣のベッドは空っぽで、部屋の扉が少し開いている。隙間から護衛の死体が横たわっているのが見えた。
この日は、父親は仕事で屋敷に居ない。
使用人や組織の者が屋敷内の至るところで倒れている。これが誰の仕業なのか、教えられずとも分かっていた響介に恐怖心は無かった。明かりがともった父の書斎を覗くと鳴介が机や本棚を乱雑に漁っているところだった。
「何してるの、兄さん」
呼び掛けに気づいた彼は外套を羽織り旅支度を済ませた格好をしている。響介の元に歩み寄ると束ねた書類を相手へ突きつけた。
「みろよ…薬の事が書いてある…。どうりでおかしいと思ったんだ」
書類には兄弟の身体検査の結果や、薬の進行度、新薬の実験結果が記されていた。
「病気にならないんじゃない、俺たちは大人になれないんだよ!ただの実験動物としか思ってないんだ、アイツは」
罵り吐き捨てた鳴介からは憎しみが溢れ出ていた。彼は弟が想っているより母親を愛し、弟が感じているよりずっと父親を嫌悪している。
「あの男は大嘘つきだ!!!!」
再び書類を奪うと証拠になりそうなものを片っ端から集めトランクに詰めていく。
「俺はどんな手を使っても必ず父さんを殺す」
その表情と、あの夕暮れの中で涙を流した母親の面影が重なった。
——同じだ。母さんも兄さんも俺を置いていく。彼らの決意は自分が何と言おうと揺らぐことは無い。
どうして同じ場所に行くことが出来ないのだろう。
「待って、俺も、連れて行って…」
準備を整え窓から飛び降りようとする兄を引き止めた。
こちらを返り見る氷のように冷たい視線は響介の心を抉り絶望させるのに十分だった。母親を見殺した弟と一緒にいけるか、そう語ったような黒い瞳は数秒間こちらを見た後夜の闇に消えていった。
「お前の兄さんは子供の悪戯では済まされない事をしてしまった。分かるね?裏切り者には死で償わせる。それが自分の息子であってもだ」
一人取り残された響介に託されたのは初めての暗殺任務だった。鳴介が逃げた時も、母を殺してしまった時も男は響介を叱らなかった。ただ、淡々と受け入れる姿勢が気味悪いくらいだった。
兄が飛び降りた窓から外を眺める父の背中は広く大きく、それでいておぞましい。
「兄さんが、言ってた。あの薬は、大きくなれない薬だって。俺たちは実験台にすぎないって。本当なの?」
ゆっくりとこちらを振り返る男は濁ったような灰色の眼差しを少年に向けた。
「あれは、不老薬といって永遠に老いることのない若々しい肉体を保つ薬だ。勿論、薬を飲んでいる間は病にかかることはない。私はお前達に長生きして貰いたくて与えたんだよ」
兄ならきっとこう言うに違いない、詭弁だと。成長期である自分たちの方が実験結果が著しく出やすいのだ。
「だが、これはまだ未完成だ。いずれ完成する時が来る。…不老薬の効果を打ち消す対抗薬の試作品は、あの子が奪っていったようだ。もしお前が大きくなりたいというのなら、新しく作った対抗薬を兄を殺してきた褒美に渡そう」
褒美とはつまり、命令。
男はいつもの薬が詰まったピルケースを響介に手渡した。
どこへ行っても、この薬をずっと飲み続けなければならない。
「一人で…」
「そうだ。一人で、だ。私の仲間も彼を探しているがね」
いずれにせよここを離れられる。母も兄も去った。与えられた任務をこなさなければどのような形であれ死は免れない。反面、何の目的もなく彼の道具として学び生かされてきた。今与えられた使命が、己の生きる意味となる。
男は自分に選ばせているのだ。任務を捨て兄と同じように逃げるか、全うして彼の元で生き延びるか。
ケースを受け取り、部屋を出ようとした響介に男は思い出したように投げ掛けた。
「ところで、セルジオ。お前は幾つになった?」
振り返らずに少年はドアノブを握った。
「11だよ、父さん」
「そうか。大きくなったな」
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