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For who(誰が為)
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*
白島は倒れても尚、ナルの銃撃から身を呈して少年を庇い続けた。
「どうして…」
青ざめ震えるテルに彼は薄っすらと目を開き唇を吊り上げる。
「言ったろ、撃たれたくらいじゃ死なねえって…」
致死量のダメージを受けたのにも関わらず男は微かに息を吹き返しゆっくりと呼吸を始めテルを抱く腕に力を込める。
「お前が死んだら…また新しいパートナーと組まされる俺の身にもなってみろ」
その言葉が混乱していたテルの体にゆっくりと浸透した。
——そうだ、この男は誰かのためならば自己犠牲を厭わない。
それを知っていた、心配していたはずなのに。
(こんな風に自分の為を想ってくれていた人を俺は昔、訳も分からずに手を掛けてしまった)
一人闇を彷徨い続けた中で失いかけていた感情は白島と出会って呼び覚まされていった。自分は死を恐れていたはずだ。
「まったく、馬鹿なやつらだよ」
足音が近づきナルが銃を手に二人を冷たく見下ろす。
(俺は生きる、己の為でも父親の為でもない)
この男の為に
「殺す」
敵意を剥き出しにし、飛び起きて銃を構えた少年の腕を白島が押さえた。それとほぼ同時に、間髪入れずナルの背後に現れた八熊が彼の後頭部に銃口を突きつけた。
「馬鹿はテメェだよ」
*
目が醒めると、見慣れた車の中で外は少しずつ白み始めていた。隣の運転席には白島が目を閉じて座っている。背凭れを少し後ろに倒して休んでいるようだ。
——白島は生きている?
不安になり身を乗り出すと、彼の肌蹴た胸元に手を伸ばして傷を確認するが、処置の後どころか銃痕一つ無い。
確かあの後、難無く復活して後処理を手伝う白島を見て驚き、どっとした疲労感にテルは意識を手放してしまった。少しの間眠っていたようだ。
ぼんやりとした頭の中で、彼が死にかけたのは夢だったのだろうか…と思いつつも、破れた衣服や血染めの赤黒いシャツを見る限り現実に起きたことは間違いない。
一体どういうことだ、と困惑するテルの視線に気づいた白島は瞼を開け少し首を捻ると普段と何ら変わりのないトーンでテルに話しかけた。
「大丈夫か」
低く落ち着いた声に安堵してしまったことを自覚する。
それはこちらのセリフだと、言い返したくなる少年の頭を撫でた男はゆっくり息を吐いて苦笑した。
「お互い、黙ってることが多すぎたな」
それはどれを指しているのか…明るみになった事、全てだ。
今回もまた、白島はかなり無茶をした。それなのに無傷のままでいることとも関係がある。彼の胸元を指差せば白島は困ったように眉尻を下げた。
「俺は生まれつき、人より頑丈にできてんだ」
この治癒力は頑丈という域を超えている。
思い返してみれば以前に戦った時も、麻酔で撃ち抜かれた時も、どうりで回復が早く並ならぬ丈夫さだと驚嘆していた。首も肩も胸も脚も、怪我の痕跡すら残っていない。
常人には無い特別な体質。
「白島は、ESPなのか…?」
その疑問に彼はふふふ、と口を閉じたまま笑いポケットから煙草を取り出す。
「違えよ。そんなんじゃねえんだ」
火をつけ咥えると「それより、」と相手に続けた。
「お前はこれからどうするんだ」
運び屋に転職して白島と組んだのも、元よりナルを見つけるまでの予定だった。彼もそれを分かっていたのに、新しいパートナーを探すのが面倒だと嘘をついて守ってくれた事が少なからず嬉しかった。
…どうするのか。
生き続ける事は無理なのかと諦めようとしたら、白島に救われた。それでいて、ナルを殺すことも許さなかった。
自分は前にも後ろにも進めない。あの男の元へ戻るか、死ぬか、以外の道を見つけてしまった。
できるなら最期まで、
「…一緒に、…いたい」
真剣な瞳が真っ直ぐに少年を見ている。居たたまれなくなり、顔を見られないように俯いた。
白島は口元を緩めると「ああ」と小さく返事をし、相方の体を己の胸に軽く抱き寄せた。
「そんな泣きそうな顔で言うなよなぁ」
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