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harvest(収穫)にしおりをはさみました!
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harvest(収穫)
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「具合はどうですかい」
「おう」
襖を開け盆に白湯と薬を乗せて持ってきた八熊の側近である南雲は、主人が寝込む布団の傍へ座った。彼の肩にも包帯が巻かれているが、瀕死の状態からここまで回復したこの男も中々タフである。
「遊馬はどうしてる」
「ヘイ、屋敷の手入れに」
もう一人の側近である彼は、いくら操られていたとはいえ主人を手にかけようとし、兄貴分である南雲に怪我を負わせた罪悪感でかなり傷心したらしい。あれから側近を辞めると言って聞かなかったのを二人してなんとか引き止めた所だった。
南雲は八熊の身体を起こすのを手伝うと胡座をかいて遊馬が置いていった書類に目を走らせた。
「随分やられちまいましたね」
「…その分収穫もあったさ」
湯呑みをとった八熊は薬を口に含みゆっくりと嚥下すると息をついた。
「南雲、爺さんが死んで何年になる」
「三年でさぁ…」
残った白湯に写り込んだ自分の顔を眺めながら男は淡々と説明し始めた。
「その間に、元々爺さんの相談役だった鷲本のジジイが四龍会を立ち上げ組の者が随分取り込まれた。…今回の騒動に乗じて俺を消すつもりだった」
「まさか…」
「そうさ、四龍会におひねりを持たされた奴らは喜んで警備についたよ。賊を招き寄せるつもりだったんだろうなァ」
あくまで涼葉組の傘下である四龍会は、八熊三七郎の孫である黒雪のやり方に反感を成した古株達の集いである。お互いに表立った闘争は避けてきたが、四龍会が勢力を整えてこれば問題になる。
「だが、照屋鳴介はそんな事ァお構い無しだ。おかげで不穏分子諸共一掃されちまったな」
くつくつと小さく喉を揺らした八熊は締め切った障子窓の方へ視線を移した。白島にも八熊自身にも相互利益を産んだ策だったようだ。
「それでもって、アンデゼールのトップを捕らえた事でマフィアと交渉する材料が出来たってモンだ」
「そっから被害分を丸ごと補ってやるさ、」とほくそ笑んだ彼に側近は苦笑した。昔からこの男の悪どいやり方は折紙つきだ。
「それに…」
と、続けて八熊は照屋鳴介の弟だという少年を思い浮かべた。
(あいつの弱みだって手に入れたことになる)
思いがけない収穫だ。
言いかけて黙った男の腹の内を察してか、南雲は釘を刺した。
「それにしても…あの運び屋に入れ込みすぎてやしませんかィ…」
心中を読まれた八熊は口角を下げる。これも付き合いの長さ故だ。
南雲は真剣みを帯びた口調で軽く咳払いをするとサングラスのブリッジを押し上げた。
「もう諦めてオレにしやしょうや」
「天と地ほどの差があるわボケナス!」
*
運び屋の車は、町外れの濃い霧に包まれた閑静な住宅街にある大きな家に停まった。到着した場所は寂れた白いタイル張りの建物だ。テルは車を降りた白島の後に続いた。
「ここは…」
「びょーいん…」
そう聞いてテルの足が止まる。警戒する少年に振り返ると「心配いらねぇよ」と男は付け足した。
「俺の実家だ」
家は外装に反して中は清潔感があり「夜間診療」と書かれたポスターが壁に貼り付けてある。薄暗い待合室にも受付にも誰もいない。白島は気にせず奥へと入っていく。診察室の扉を開けると一人の老人がパソコンに向かって何かを打ち込んでいた。
来客に気づいた医者は老眼鏡を外すと些か驚いた面持ちで彼らを見るなり口をもごつかせた。
「拓人…お前、暫く会わん間にガキまでこしらえてしもうたんか」
「こしらえてねえよ!!相方だ相方!!!」
ボケをかました老人は白島の育ての親で名を景造といい、この界隈では有名な闇医者だという。白島は助力を求めてテルと薬のことを大まかに説明した。
「…ということなんだが、何とかならねえかな…」
「面白い話じゃが、マフィアが大金を積んで最先端の技術で何年もかけて作った薬を、ワシに作れるはずなかろうて」
テルから受け取ったピルケースの中を眺めていた景造は顎髭を撫でながら溜息をついた二人を見つめ返す。
「体に染み付いた薬を浄化して成長できる身体に戻したいっていうんなら、もっと簡単な方法があるぞ」
「本当か?!」
ううん、と肯定とも否定とも取れる唸りを出して景造は白島を指差した。
「成功するか分からんがな。お前の血を使って透析するんじゃよ」
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