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transition(変わり始める)
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翌朝テルが部屋の戸を開けると、白島は肩の傷を隠すかのように慌ててワイシャツを羽織った。傷の具合いは伺えなかったものの、ベッドに座りボタンを留めていく手を見ながら少年は瞳を細める。
「無茶なやり方だった」
「……」
話しかけると白島は片眉を上げた。
アシバから攻撃をくらった時、彼に何か思惑がある事を察知した故にあえて何も言わなかった。白島の行動は必要不可欠だっとはいえ、今後このようなやり方を繰り返されると流石に目に余る。
まるで自己犠牲を厭わない。
他にやり方があったかと言えば直ぐには思いつかないが、少なくとも自ずから怪我をする利点は無い。不満一杯な表情のテルが可笑しくて、白島はヘラりと頬を緩めた。
「心配してくれてんの?」
「!……」
当たり前だ、と出かかった言葉を呑み込んだ。なぜ当たり前なのか?自分の思考回路に疑問が浮かぶ。
出会った頃はただ事務的に組まざるをえない相手、としか認識していなかった。彼が死ねばまた新しい相手を見つければ良いだけの事。
それが今ではこの男のダメージが少なからず気がかりだ。白島が狙われていると明確に分かり余計にそう感じる。
彼と公私同じくして二週間が経ち、この場所が過ごし易い環境だと思い始めている証拠だった。
「…死なれると、困る」
「そうか」
正直に心境を伝えるが、白島のニヤついた顔が不服で視線を逸らす。やはり自身の苛つきを適切な言葉で表せない。
部屋から出ようとドアノブを掴んだ時、シーツの上に置かれていた部屋主の携帯が振動する。彼はそれを手に取りボタンを押して通話に出た。
*
「おかえりなさい」
研究室の自動ドアが開き男が1人頭を押さえふらつきながら入ってきたので、ブランクはデスクに向かったまま振り返らずに相手に声をかけた。男はドア近くの壁に凭れかかり、くつくつと喉を鳴らす。
「ヒヒヒ…負けたぜェ、油断しちまったァ」
「…今回の目的はあくまで情報収集でしたので、はなから彼を連れて来る事に期待はしていませんでしたが……。ワタシも君が死んで帰って来たことには驚きデスヨ」
ブランクは椅子を回転させ壁際に立つ血の付いた桃色髪の男を見るなり苦笑した。手にしていたボールペンをくるくると指先で回して弄びながらアシバの身体をくまなく観察する。
「能力に支障はありませんか?」
「問題ねェ。次はやれる」
「ほう、それは良かった。分かっていると思いますが…あなたの命はあと一度きり」
「とんだ醜態晒しだぜ…ハハ、これ以上ねェ恵みだなァ」
充分だ、と悔し紛れに顔を顰め力むアシバを憐れむように白衣を着た研究者は肩を竦めた。
「そんなに気に病むことはありません、あなたは能力ではなく経験で負けたのデス」
「ハッ、慰めにすらなってねェや。……オレだって手ぶらで帰ってきたワケじゃねェ」
これ、ついでに直しておいてくれ、とアシバはリールのついたベルトと二対の鎌を床へ放り投げて部屋から立ち去った。
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