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32.✩ごめんなさいにしおりをはさみました!
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32.✩ごめんなさい
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✩✩✩✩
階段下で倒れる俺と走り去る市倉を見た、って。
それって……。
「あなたが記憶をなくしたのは、階段から突き落とされたからかもしれないの」
どうしてそんなことを?俺が市倉に何かしたの?
「私たちが楓に市倉を近づけたくない理由はね、市倉はその、楓のことが……好きなのよ」
「す、き……?」
心が一瞬ざわついたけど、ぴんとこなかった。好きにもいろいろ種類はあるし。例えば友情とか尊敬とか……。
「敬愛とか友情じゃないの、恋愛よ。あいつは恋愛対象として楓のことが好きなの」
「え……」
俺は別に男同士だとか同性愛に偏見は無いけど、一番身近な人がそうやって他人から見られているとなると正直驚く。
…………でも、市倉の気持ち、分からなくもない。だって楓さん、かっこいいし綺麗だし。大学に行けば可愛い子とかに目が行くかと思ってたけど、そんなことなかった。むしろ楓さんの方がいいとまで思ってしまっている自分がいることに今さら気づいて、思考回路が停止した。
……あれ、俺は楓さんのこと、どういう『好き』で見てるんだっけ?
「あいつは好きって気持ちが行き過ぎて、楓を傷つけるかもしれないの。独占欲が強いあいつは病的なほど楓が好きらしいのよ」
「待って、柚里はなんでそこまで市倉のこと、知ってるの……?」
「弟だからよ。あなたたちと出会う前に親が離婚してあいつは市倉になったけど、あいつは私の双子の弟よ。だから、あいつがどれくらい危険かも分かる」
「え、弟!?」
そんなことを急に言われて不意打ちで殴られた気分なんだけど……。正直、市倉は楓さんのことが好きっていうことよりも、柚里と市倉が双子だってことに驚いた。
「とにかく、あいつには十分気をつけるのよ?楓があいつとこれ以上関わりを持たないようにしないと……」
「でも、楓さんも子供じゃないんだし……」
「子供じゃないから大丈夫だって?あいつ今まで練習だと言って何人も男を抱いてきてるのよ?……あなたは楓があいつに抱かれてもいいの?」
「は!?いや、えっ、……な、にそれ……」
市倉が楓さんを抱く?
市倉に組み敷かれる楓さんとか……そんなの絶対、い、嫌なんだけど……。
嫌とか俺が言える立場じゃないけど、誰かを抱いたり誰かに抱かれたりしてる楓さんを見たくないし知りたくもない。それだけじゃなくて、楓さんが誰かと恋愛関係になることを想像しただけで、胸の中で言い様のない感情がぐるぐると渦巻いて飲み込まれそうになる。
「……そんなの、嫌だけど……」
「そうでしょう?だってあなた、楓のこと好きだものね」
「…………え?」
柚里にそう言われて考えてみる。
楓さんのことは好きだけど。
もしかして俺の好きは、柚里の言う市倉の好きと同じ?
……俺は楓さんのことが、恋愛対象として好き……?
ドキドキするし楓さんのこと考えてると幸せだけど胸が痛くなる。これが恋というなら、そうなのかもしれない。楓さんのことが好きだから、自分以外の誰かとそういう関係になってほしくないと思うのか。
「そっか……俺、楓さんのこと好き、なんだ……」
「……やっぱり誰かが言わないと気がつかなかったのね。ずっと気づかないままなんじゃないかって、心配だったのよ」
含みのある言い方に柚里を見ると、影のある笑みを浮かべていた。
話は終わったから帰るわ、と言って柚里は立ち上がった。柚里が部屋から出ようとドアを開けるとトレーにマグカップを二つ乗せた楓さんがいた。
一瞬、話を聞かれていたんじゃないかとドキッとしたけど楓さんは特に何も言ってこないで、二三言言葉を交わしてあっさり帰っていった柚里を不思議そうに見ていた。その横顔を見ているときゅっと胸がしめつけられる。
……ああ、やっぱり俺、楓さんのこと好きなんだ。
楓さん、全部忘れちゃって、何も覚えてなくて、ごめんなさい……。前の俺に向けられているかもしれない楓さんの優しさを、何食わぬ顔で受け取って喜んでる、そんな俺が……楓さんのことを好きになる資格なんて……。
しめつけるような胸の痛みをどうしたらいいのか分からなくて、体が動くままに俺は楓さんにそっと抱きついた。
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