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34.✩意識にしおりをはさみました!
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34.✩意識
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✩✩✩✩
………だめだ。
柚里に自分は楓さんが好きだと自覚させられてから、四六時中ずっと楓さんのことを考えている。
一度好きだと自覚してしまったら、それを上手く表に出さないようにするなんて俺にはまだ難しい。
だから少しでも楓さんから意識を反らせようと、一日にあったことを話すようにしていた。
それなのに、楓さんを目の前にするとかえって意識し過ぎて変な話をしてしまう。俺のことをカッコイイと言った女の子なんて俺自身どうでもいいのに、何か話題を探そうと思って結局そんなくだらないことを喋ってしまう。
けれど、楓さんは俺の話をにこにこと楽しそうに笑顔を浮かべて聞いてくれている。
楓さんの考えていることはほとんど分からないけど、きっと前の俺のことでも考えているんだろうなと思った。
なんとなく分かってしまう。さも楽しそうに大学生活を満喫しているように話す俺を、楓さんは懐かしむような目で見ているから。
楓さんのその目に気づいてしまうと、胸が苦しくなる。苦しくなって、痛くなって、どうにもできなくて悲しくなる。
楓さんは今の俺に前の俺を重ねているんだ。
楓さんが会いたいのは空っぽな今の俺じゃなくて、ずっと一緒に過ごしてきた『旭』なんだと思う。
俺だって好きで記憶を無くしたわけじゃないのに。……俺は楓さんのことが好きなのに。
消えていなくなった旭より、今楓さんの目の前にいる俺を見てほしい。
『今の旭』を見てほしい。
記憶をなくして何もない俺が、楓さんの中の『旭』に勝てるわけなんてないのにそう思わずにはいられなくて、でもそれは俺のわがままだって分かってるから何も言えなくて。
「でね、講義が終わったあとに…………あ、ごめん、俺ばっかり喋っちゃったね」
話を中断して一方的に話していたことを謝る。そうすれば楓さんはその瞳に俺を映して、目の前の俺に意識を向けてくれる。
「なんで謝るの、聞かせてよ。毎晩の楽しみなんだから」
ずっとこうやって今の俺を見ていてくれればいいのに。こんなことでしか楓さんの意識を向けさせられないことにも悲しくなった。
「なら良かった。……あの、楓さん……」
ずっと気になってた前の俺と楓さんの関係を聞こうと思ったけど、やめた。
これまでにさんざん聞いて曖昧にされてきたし、聞いたところで当り障りのない言葉が返ってくるだけだろうし、よく考えたらこれじゃあまた前の俺に意識が向いてしまう。
…………ほんと馬鹿だな、俺。
なんとなく気まずくなって、課題をすると言って楓さんから逃げるようにリビングから出た。
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