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前進
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もう、龍希への気持ちは、なんとなくは理解している。
こうなったら仕方ないとして、それは認めてみよう。
だがしかし、これは何だ?
髪に触れたいなどと。男の自分が、男の龍希の髪に触れたいなどと。
これにはさすがに嫌悪に近い気持ちを感じた。
無論、嫌悪等と思うことが失礼な話なのだが、この時の貴仁にはそんな場合ではないので、
そこには少し目をつむっていただきたい。
そんな自己嫌悪のような気持ちを噛み締めた瞬間、不思議と本日までごちゃごちゃと考えあぐねていた気持ちが、スッと軽くなったような気がした
まるでどこかに居場所を見付けたかのように
自分でもよく理解の出来ない自分の感情に振り回されながら、何とか平静を保とうと、
なんとなしに視線を龍希の寝ている卓上に落とす。
おそらく仕事をしていたのだろう。
仕事の関係の書類がいくつも置かれている。
貴仁が見たところで、暗号のようにしか写らない、文字が並ぶ。
洋服の名称が書かれるのかと思いきや、
会社独自の記号やナンバー付けがあるのだろう。
アルファベットや数字の方が多く見える。
そう言えば洋服屋のタグには、カラーや形を示すで在ろう数字などが書いてあるよな。
などという事をふと思い出して、
知り得た新たな知識を面白く感じた。
そんな仕事の書類に混じって置かれていたのは、龍希の相棒とも言える、料理の本だ。
最近では、けんちゃんが作ってくれた、けんちゃんレシピ集とやらも新たな相棒に加わったようだ。
その相棒達の置かれ方から見るに、きっと仕事の途中、夕飯の準備の時間に気付いたのだろう。
置かれたものから、本日のメニューはけんちゃんレシピ集から、
「蓮根のはさみ焼き」というモノになるようだ。
休日は決まって少し手間のかかるメニューがお目見えする。
頑張っている。
そんな事は目に見えて解っていた。
仕事にも熱心だ。慣れない店長職はストレスも多そうだ。
帰りが日付をまたぐ事も珍しくはなかったし、休日にも仕事の電話をしているのをたまに目にする。
そのくせ、どんな日にも、食事の時間がまちまちな貴仁が好きなタイミングで食べられるように、
作り置き出来る物を用意し置いといてくれているし、
休日には、こうして新たなレシピに挑戦をしてくれたりもする。
無論、食べられるギリギリの味に完成する事もそこそこの数有るのだが、
色々な献立をと、気にかけてくれているのは容易に理解できた。
「どこに、そんな力あんだか……」
すやすやと寝息を立てる顔は、貴仁から見ればやはりまだまだ幼くも映るそれだった。
この顔が、辛そうに歪んだ。
涙を流した。
全て俺を想っての事で。
そう考えると、やはりその髪に触れたい、
そして、笑顔を覗かせて欲しいと、
思う事を止められずにいた。
ふっと、小さく笑うと、貴仁は自分の今感じた気持ちに、やれやれと呆れた。
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