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前進から、確信。にしおりをはさみました!
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前進から、確信。
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目眩がするようで、
何か言葉を出さなければと思えど何も出ず
寧ろ、口を開く事すらも困難で
唇が、鉛のように重く感じて
対する貴仁の気持ちと言葉は、真っ白な澄んだ風のようで。
けれども
自分の存在と心は、まるでその風を汚染する何かのようにしか、感じられず……。
───……それなのに、この手が嬉しい。
そう、こんなに今の状況を上手く喜べないで居る心に対して、
自分の脳は今、この手を嬉しいなどと感じている。
それが罪にしか感じられないと言うのに。
「……龍希、俺の本心はさ……」
心と脳の葛藤の中、飛び込んで来た貴仁の言葉に龍希はビクリと身体を強ばらせた。
今、嬉しいなどと素直に感じてしまった手が、急に酷く汚いモノに映る。
現実。
この人はゲイではなく、そして自分はゲイであると言う、現実。そしてそれは幸福に繋がらないという思考。
これは間違いなく、貴仁ではなく龍希本人が自分で勝手に作り出した差別。
同時に、
これまでのこの国でゲイとして生きてきた経験が作り上げた思考の連結。
「……っ!こんなの、駄目だ。」
貴仁が優しく言いかけた言葉を遮ったのは、その思考の作り出す意味のない鎖に絡まっている龍希の言葉。
「……え?」
理解が出来ないのは、貴仁である。
受け入れられる予定が拒否されている。
笑顔が見たくて起こした行動の筈だったのに、
今、目の前の男がしている表情は、
駄目だと言いながらも、その手は離そうとしない、今にも泣きそうな、それ。
「……こんなの、駄目なんだよっ!きっと本当の本当の本心なんかじゃないよ。貴方は俺を選ばなくても大丈夫な人なんだ!」
泣きそうなくせに、涙は出ず。
離さなくてはと、思ってもその手は離せず。
自分は、香奈子にはなれない。
対してこの人は、
女性から見ても魅力的で、素敵だった香奈子のような人と出会える筈の人だ。
こんなに、震える程の決心までせずとも、手を繋ぎ、口づけをして、
無理などしなくとも微笑み合え、身体を重ね、
誰からも祝福をされ、愛すべき子供をその手に抱く。
家族を作り出せる。
───この人は、それが出来る人なんだ。
龍希は、それを幾度と自身に言い聞かせ
その手から貴仁のぬくもりを引き剥がそうとした。
……出来なかった。
決して貴仁が、強く握っているからではない。
なのに、全くそれが出来ない。
「……なんでっ、なんで離れないんだよっ!…なんでっ……バカヤロ。」
離そうとしていた手は、いつの間にか貴仁の手を強く握り返していた。
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