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買い物_1
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「ちょっと待て。ここに座れ」
優也さんがエレベーターを降りた所にある長椅子を指さす。
「あ。でも奏…」
言いかけたけど腕を掴まれて隣り合って座らされる。
「体調悪いか?」
「いえ。大丈夫です。」
掴まれたままの手首に強い力が加えられる。
きゅっと目を閉じると優しい声が響く。
「あのな、愁。嘘をつくならもっと上手くつけ。お前の大丈夫は全然、大丈夫に聞こえない。」
そう言ってポケットに指をかけられる。
「待って、待ってください。」
「隠し事するのか?」
そうじゃない。そうじゃないけど
それを見られたら
隣にはいられないかもしれない…
「優也さんっ、やめてっ」
上半身を捻って立ち上がろうとしたけど体格が違いすぎて抵抗にならない。
簡単に僕の動きを封じた優也さんはポケットから写真を引き抜いた。
「…。これは?」
予想したよりも冷静な声が響く。
背中から冷水を浴びたみたいに、体がヒンヤリしてきて、いたたまれなくなる。
「昔の…写真です…」
「ああ。今より髪が長いな。学生の頃か」
…
「渡したヤツは知り合いか?」
喉がくっついたみたいに声が出ない。
顔なんて見てないから誰だったかもわからなくて。
「こんなヤツだと思わなかった。」
冷めた声でそう言われて、ギクリと肩が揺れる。
そう。そうだよね。
笑っているようにさえ見える写真の自分。
こんな…
「そう言うのが普通か?」
普通かどうかわからないけど、正しいと思う。
俯いたまま頷く事しかできない。
じっと下を向いていると、固く握りしめた両手を開かせるように指が差し込まれて、じっとり汗ばんだ手のひらに優也さんがふれる。
「それじゃあ俺は普通じゃないかもな。」
普通じゃ、ない。
それは僕の事。
寝ても覚めても犯され続けて
感じるように仕込まれた体と
それに嫌悪感を抱き続ける毎日。
壊れていく僕を冷静に見ていた自分が恐ろしかった。
こんな経験。隣に置いてもらうには不釣り合いだ。
汚い物を身近に置いておく理由がない。
過去は消せない。
それなのに
近くにいたいから汚い事を、普通じゃない事を、黙ったまま側にいようとしてる。
それは卑怯な事だってわかってる。
それでも…
「…え?」
ふんわりと抱き寄せられて、目を見開く。
意図がわからなくて顔が上げられない。
「一度くらい、人を信じてみないか。」
抱き寄せられた腕の中で、まばたきを繰り返してしまう。
優しくされたら赦されたと誤解してしまう。
「それとも、俺が怖い?」
怖い。
怖いのは、こんな時にも期待してしまう欲深さだ。
小さく首を左右に振って意志を伝える。
「正直なとこ、こんなにお前に執着する自分が怖いよ俺は。」
執着…
あんな写真を見てもまだそんな事を言っているの?
それとも、ただの性癖だとでも思ったんだろうか。
「なぁ愁、お前は何でそんな泣きそうな顔してるんだ。俺に知られたくない事があるからか?言いたくないだろうから聞かなかったが…アイツがまだ都内にいるのはわかりきってる。不安で仕方ないんだろう?過去は過去だ。知られたらまた逃げようとでも考えているなら大きな間違いだぞ。」
人目を気にして少し体を離して隣り合うように座り直す。
優也さんの腕が肩に回されて、宥めるようにポンポンと頭を撫でられる。
「…嫌われたくない。」
カラカラの喉から出た声はかすれて聞き取れたかどうかわからない。
「愁がどう言い訳しようと、俺はお前を離さない。逃げたらどこまででも追い掛けるつもりだ。」
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