アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
Ⅹにしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
Ⅹ
-
「仁さん、どうも。」
『どしたの?宮ちゃん、めずらしい。』
「仁さん、これから出ない?」
『僕はいいけど、明日仕事じゃないの?』
「そんな深酒する気はないよ。」
『了解、じゃあ、ベタにススキノで待ち合わせしよう。地下で!』
「どっち側?」
『そりゃ~改札側でしょ。』
「40分後くらいに着けそうかな。」
『僕は歩いていくよ、お散歩がてら。』
「じゃあ、また。」
智、俺は踏み出すことにしたからな。
こじんまりした和食の店で仁さんと俺は日本酒を舐めていた。
料理をつつきながら何て事のない話をしている。お銚子が3本あいたところで仁さんが口を開いた。
「これ以上進んだら深酒の域にいっちゃうよ?宮ちゃん。」
「そうだね。」
「智ちゃんのこと?」
相変わらずこの人には勝てそうにない。
「仁さん、智・・もらっていいかな?」
仁さんは片方の眉をあげて俺を見る。
「智ちゃんは智ちゃんだ。僕のものでもなんでもないよ?」
「・・いや、なんか仁さんと智の間には、俺にはない何かがあるだろ?」
仁さんはお銚子をもう一本頼んだあとゆっくり話だす。
「そうだね、最初に智ちゃんに会ったときから僕は智ちゃんが大好きだ。頭が良い、そして自分を知っている。媚びない、格好よくて可愛い。」
確かに・・その通りだ。
「稜が大阪に帰った日、智ちゃんはひとりで飲みにきたんだ。自分の中に全部閉じ込めてね。みている僕のほうが泣きそうだった。」
智に心の落とし方を教えた男・・・稜という名のミサキ。
「だから店の看板消して、言ったんだ。自分に戻っていいよって。叫ぶように泣きだした智ちゃんを僕はずっと抱きしめていた。僕も少し泣いちゃったよ、あんまり痛々しくて・・・」
「智はその男に約束したんだ、忘れないって。ずっと抱えて行くって宣言されたよ。」
「智ちゃんらしいね、そんなことわざわざ言わなくてもいいのに。」
そうだ・・黙っていればいいことだ。自分の過去をあえて言う人間なんてそういない。俺だって言ったことがない。全部抱えろってこと・・か。
「その時僕は思った。智ちゃんは幸せにならなくちゃいけない。だからずっと見守ってきた。残念ながら僕には智ちゃんを幸せにすることはできない、それはどうしようもないことだ。」
「なんで、仁さんならダメなの?」
「ん~。そういうのってあるだろ?お互い好きだけど、色恋に発展しない相性って。宮ちゃんだって片さんと恋人になれる?」
「・・・無理だろうな。」
「即答かい!片さんに言っておくよ。」
ケラケラ笑う仁さんにつられて俺も笑みが浮かぶ。
「智ちゃんの過去を知っているから絆があるんだよ。僕達の間の空気が少し違うのは、智ちゃんは僕に心を許しているからかもね。簡単に自分を委ねるような人間じゃないからさ、智ちゃんは。」
「たしかにね・・・」
「そこにようやく宮ちゃんが現れた。」
「俺?」
「そう、智ちゃんと対等であり、弱さもみせることができる。でもちゃんと守れるような男。」
・・・弱いな、たしかに。
「4年かかったんだよ、宮ちゃん。」
「え?4年も一人でいたのか?」
「うん。ずっと待ってたんだ。稜との関係で智ちゃんは「欲しい」と思う気持ちを知ってしまった。それに今度は刹那的な関係を望んでいなかったしね。ただこんなに宮ちゃんがのんびりさんなのは誤算だったかな。」
「のんびりって、あんまりじゃない?」
「僕が初めてあった頃の智ちゃんに逢っていれば、そんなのんびりしてなかったはずだよ。なんだかね、削り取られたっていうのかな?削ぎ落されて、男の本能の塊みたいな凄みがあったよ。僕だってゾクってしたんだ。会ったその日に「君が好きだよ」って言っちゃったくらいだからな~」
なんだって?
顔をあげて仁さんの目をみると驚くほど静かな目をしていた。おどけた様子は一つもない。
「あの時の智ちゃんをみておくんだったね、宮ちゃん。」
「いや・・・その片鱗を今日見たというか。」
仁さんが面白そうにほほ笑む。
「それでようやくケツに火がついて僕に逢いにきたんだね。」
「格好悪いけどね。」
「やっぱり智ちゃんは最高だね。ますます好きになったよ僕。」
「俺、智がいいんだよ・・。智に何を教えたか知らないけど、その男を抱えていようが、なんであろうが。智に傍にいてほしい、俺が傍にいたい。」
仁さんは満足そうにほほ笑んだ。
「言う相手が違うよ、宮ちゃん。」
少し恥ずかしくなって、お猪口をあおった。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
10 / 11