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君の話を聴こうか、[指名]にしおりをはさみました!
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君の話を聴こうか、[指名]
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僕と兄ちゃんは、いや、紅葉も含めた僕達3人は順調にバイト先に馴染んだ。兄ちゃんはゴールデンウィークを楽しめたみたいだったし、僕と紅葉はその穴を埋める為にバイトを頑張った。そんな5月の終わり。
飲食店のバイト経験者の兄ちゃんは、さすがに仕事の要領が良い。活き活きと楽しそうに働くし、案の定というか…店長に気に入られ簡単なラテアートのやり方を教えてもらう事から始まり、気が付けばかわいい動物の絵を描く程の腕前になっている。
言い訳じゃないけど、ラテアートは向き不向きもあるから、みんながやってる訳じゃない。当然、僕は無理。紅葉も無理。本当に、兄ちゃんは器用だ。しかも、今では殆んど厨房に立たされていて、ホールスタッフじゃなくなっている…。本人が楽しそうだから、まあ良いんだけど。いや、やっぱり店長が気になる。
「楓君。明日の土曜日って、朝からのシフトでしょ。私もなんだ、終わったら遊びに行かない?」
バイト仲間の女の子、確か同い年だけどバイト歴は2年目という須田さんが話し掛けてきた。
「え…ああ、ごめん。明日は無理なんだ。」
上の空で返事をする。明日は紅葉の番だし、今は彼女の話よりも店長の動きが気になる。なんか、兄ちゃんの背中へさり気に手を回して話をしている。また、新メニューの相談とかそんな事だろう……今日は触れる頻度が高い。
兄ちゃんが通う専門学校は女の子が多いから安心してたけど、やっぱりというか、なんだかなあ。
入り口の自動ドアが開く音、
「いらっしゃいませ。」
客の顔も確認しないで反射的に声を掛ける。接近マニュアルに定められている要領でみんなが動く、チラッと見ると兄ちゃんは店長から離れてさっき入ったオーダーをこなしていた。ほっとして、後で紅葉に報告しないと、と頭の隅に留める。
店長、要注意。
「楓君、ご指名。いつものお友達。」
弾んだ声。ちょっと浮かれた様子の、笑顔の須田さんに呼ばれる。いや、ここは指名制の店とかじゃないだろ。もうさ、迷惑極まりない。来る度に毎度毎度毎度毎度、腹立つ。
「須田さん、いつもごめんね。直ぐに行くよ、」
内心の怒りは全部引っ込めて、笑顔を作った。交代でバイトしてる事情で、接客業ならばと、紅葉の様に愛想良くが僕らの基準。
紅葉のフリしてオーダーを聴きに、呼び出しをくらった席へ向かう。
「御注文はお決まりですか?」
おー、と真琴を見ながら返事する加賀さん。その向かい側で並んで座ってるのが、能戸さんと東野さん。東野さんは2人の中学時代の友人で、更に、兄ちゃんが通っていた塾の友達だ。3人とも今はK大学生で、ここから2つ先の駅からわざわざ途中下車して来ている。
「真琴のカプチーノ。」
お客様、失礼ですがその様なメニューはございません。って言ってやりたいが、カプチーノ1つと、素直に加賀さんのオーダーを受ける。
「俺は、ベーグルサンドのセット。」
東野さんは良く食べる。そういやサッカーをしてるとか聞いたな、初対面の時は兄ちゃんへの好意が見え隠れしていて気に入らない人だったけど、今は彼女がいるとか。
「俺はこの前と同じもの。」
能戸さんは意地が悪い。この前とか言われても、紅葉と交代で入ってる僕は対応し辛い。
「大変申し訳ございませんが、品名を教えて下さい。」
「この前、楓が居た時に注文したやつ。」
ああ、スコーンとカフェオレ。っていうか、紅葉ときっちり交代で入ってる事を内緒にしているのに、なんかバレてる気がする。紅葉のフリする演技は慣れてるのにな…来週から変則的な感じに変更するかな。一週間毎とか、2日おきとか、
「スコーンとカフェオレで宜しいでしょうか、」
「うん。」
能戸さんが満足そうに口の端を少し上げる。やっぱり楓じゃないかと言われている気になる。
軽く一礼してオーダーを通しに、兄ちゃんの居る厨房へ向かう。既に加賀さんに気付いていて視線を交わしてる、嬉しそうな笑顔だった。あー…うん、今日も2人は一緒に帰るんだろ。分かってるよ、僕はコンビニでも寄って1本遅くするか、超スピード着替えでダッシュで1本早い電車で帰る。
僕なりに、兄ちゃんには幸せでいて欲しいって思ってるよ。
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