アダルトコンテンツが含まれます。
18歳以上ですか?
意外な一面にしおりをはさみました!
- 文字サイズ:
- 行間:
- 背景色:
- しおりがはさまれています
-
意外な一面
-
俺が知っている中で最も五條に詳しいだろう人物がこの一番不可解な謎について俺に問いただしてきた。未だ誰も解き明かしていない。当の本人に至っては喉から手がでるぐらいに知りたい真相だろう。
「そんな事、俺が知りたい」
素直にそう返せば、意外、と目を丸くする五條の幼なじみ、中島。組まれる腕に嵌められたいくつものブレスレットがジャランと音を立てた。派手な装飾品を好むらしい。
「直人くんも知らないわけ?いつから弱くなったとかも?」
そういう事は本人に聞いた方が手っ取り早いのでは?と問えば「あいつがまともに俺と取り合ってくれると思うか?」と即答された。確かに、彼の様子を見れば俺にも分かる。答えはNOだ。
「アンタと戦う丁度数十分前に弱くなった、と相談を受けたばかりだった」
そう、事の始まりはそこからだ。
「マジで?じゃあ成り行きであの場に居たってわけ?」
取り繕う余地も無い。そのまま頷けばまた驚きの声が上がる。
「なんだ。俺より事情知らないのかよ。五條はあの日から一週間前の喧嘩の時に力を失ったらしいぜ。お前それより前の事は?」
知らない、と答えれば遠くを眺めていた中島は微少ながらも面食らった表情を見せた。しかしそれは一瞬のこと。
「あの場に居ること、よく許してもらえたなァ」
「さんざん断られたがな」
「それでもだ。あいつが喧嘩に仲間を絶対巻き込まないっていうルールを直人くんに対して初めて破ったんだからなァ」
「今まで一度も…?」
「あぁ。直人くんが初めて」
キッパリと言いのけた中島は真剣な目付きでこちらを向いた。まるで俺の真意を探るような意志を持った濃いグレーの瞳。時折キラリと光に揺れては俺の顔を映す。
数日前、五條が唸るように「俺が巻き込んでしまった」と自責していたのはこの為だったのかと合点が行く。中島の強い眼差しがふっと緩むと次第に細められて、組まれた腕は頭の後ろに位置を変えた。
「まさか、五條が初めて許可した相手がこんなに弱かったとは想わなかったケド。それに最近2人でべったり行動してるみてぇだし…アンタなら絶対何か知ってると思ったんだけどなあ」
「…悪かったな」
改めて言われた言葉が胸に刺さる。カチンと一瞬頭に響いた痛みをやんわりと押さえつけた。言葉通り、俺は五條の事をまだよく知らない。だから彼の力になることさえままならない。それが酷くもどかしかった。
「でもあの頭突きはかなりキたわ」
そう言って長い前髪を掻き上げて見せる中島の額には、俺と同じ箇所に大きな絆創膏が貼ってあった。思わず自分も痕の消えない額へ指先を当ててしまう。
はた、と手を止め中島を見れば彼は髪から指を離すとどこか寂しそうな笑みを形のいい唇の端に浮かべて瞼を伏せた。
「どうしちゃったんだろうなァ、アイツ」と聞き取るには確実な言葉が漏れる。そこには他意が含まれていない。
もっと純粋なもの。きっと脳裏に思い浮かべているのはオレンジ色の髪の男の姿。その様子はまるで
「…心配か?」
尋ねれば、ブンと首を振ってすぐさま呆れ顔を見せる中島。数秒固まっていたが直ぐに表情を歪めた彼はああそうか、と己を納得させるように独り言を言った。
しかし俺にはその意味がわからない。
五條といい中島といい、お互いを嫌っているように見せてはこうしてライバルの様子を心配そうに尋ねてくる。その様子はあくまで幼なじみらしい。
今回が特例で尚且つ喧嘩する程仲が良いという名言もあるくらいだが、中島の五條に対する暴力はあからさまにやり過ぎだったし、五條も威嚇して全身で毛嫌いしている。
けれどお互いがどこか懐かしむ表情を垣間見せる間柄なのは確かだ。腐れ縁と言うには形容しがたい所もある。きっと、俺には理解できない、知らない事。五條と中島を繋ぐ長い時間が2人をそうさせているのだと思う。
「まったく…俺は2人の方が謎だ」
声に出せばぴくりと中島の背が揺れた。はァ、と溜め息混じりに流れ出た言葉はデジャヴでは無い。
「俺は五條が嫌いで、五條も俺が嫌いだ。それ以上でもそれ以下でもねぇ」
一言一句違わないだろう。思い出せば中島を前にして笑い声を漏らしてしまった。
「なんだよ!」と、突然笑い出した俺に焦ったのか照れたのか、慌てながらも唇を噛む仕草まで彼に似ている。今の言葉で俺の頭の中で絡まっていた糸の解き口が見えた気がした。
何でもない、と返せばふいとそっぽを向いて金髪は立ち上がった。そしてようやく笑いを堪え切った俺を見下ろす。
「おもってたより何も情報は得られなかったけどさァ…、」
ザワザワと風が吹いて視界に中島の金糸と背後で揺れる赤い木立が凄まじいコントラストだ。グラウンドから「オーライオーライ」と小さく声がした。
「おかげで面白いモンは見れたわ」
「ああ、俺もだ」
「あっそ」
その返事が気に入らなかったのか、舌打ちがかえってくる。そして徐に胸ポケットから黒縁の眼鏡を取り出した。それはどこかで見覚えのあるシルエット。
「はい、これ」
お前のだろ?と渡された眼鏡を受け取る。フレームに僅かながらの傷が着いていたがレンズには一切問題はない。それは紛れもなくあの日失くした眼鏡だった。
「いっつも五條と並んで帰るから渡すタイミング掴めなくて苦労したわァ」
「あ、ありがとう。一体どこで…」
「だからあそこだよ。帰り際に見つけた。軽く踏みつけちまったが…壊れてねェからいいだろ?」
成る程。通りで涼子さんが鞄と一緒に探しに行った時に見つから無かったはずだ。
「近くに放置してあった鞄に入れてやろうと思ったけどそんな義理ねえし面倒でさぁ。あ…生徒手帳は見たけどな」
「なっ…」
「あんなとこに放置してる方が悪いんだろーが」
まったく詫びる様子もなくペロリと舌を出す中島に仕方ないと肩を下げた。ふん、と鼻を鳴らして俺に背を向けた彼は正門に向かって歩き出した。
「ま、…一般人の直人くんには滅多なことが無い限り手は出さねーからよー」
「五條の方にも頼む」
「悪ィーけどそれは考えかねるわぁー」
そう言って一瞬端正な横顔がこちらに振り返りかけて、ニイと笑んだ。そしてそのまま「バイバーイ」という挨拶と一緒に中島の姿は正門へ通じる桜並木の木立の間へ消えた。
見届けていた俺は随分と打ち解けて中島と話し込んでしまったことに今更ながら驚く。向こうも言葉通り何もしてこなかったし、それに加えわざわざ眼鏡まで届けてくれた。
初めて対峙した時は、冷酷な鬼だと感じたが、いざ話してみればこういう気さくな一面もあって人間らしさを感じる。本当に人は見かけによらない。根っから悪い奴では無いないのだろうか。
それでも、安心仕切ってはいけない。少し警戒しておくぐらいが丁度いい。何かあってからでは遅いのだから。
そう自分に言い聞かせて再び気を引き締め直す。
二週間の時を経て己の元へ帰ってきた眼鏡を壊さないように握りしめたまま、暫くその場を動けずにいた。
現在の設定
文字サイズ
行間
背景色
×
16 / 50