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戻ってきた眼鏡にしおりをはさみました!
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戻ってきた眼鏡
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翌朝、大欠伸をしながらどっかりと俺の前の席に座った五條に何時も通りおはようと声を掛ける。彼はそのままくるりと椅子の向きを変えると俺と机を挟んで向かい合わせに腰を下ろす。ねみい、とか細い返事が帰ってきた。
五條の怪我は常人には考えられない程の早さで回復している。その治癒力に初めて彼を診る叔父さんも驚いていた。今日また包帯の数が減った彼の体とは裏腹に、俺はまだ一向に良くならない。といっても、これが普通の治癒速度だ。
「昨日は無事に帰れたか?」
昨晩から気になっていた事を聞けば「ああ、何も無かった」とふにゃりと眠た気な笑みが向けられる。やはり中島に会ったのは俺だけのようだ。暫くして、ようやく目が冴えてきたらしい五條が俺の顔を見るなり不思議そうな声を上げる。
「あれ、眼鏡買ったのか?」
昨日までコンタクトだった俺の顔には戻ってきたばかりの眼鏡がある。折角帰ってきたので、かけることにした。忙しい朝はまだ慣れないコンタクトは少しばかり手間どうからだ。かけ慣れた眼鏡の方がいい。
「いや、前のだ」
「失くしたんじゃなかったのか?」
「ああ、見つかったんだ。」
どこで?、と返してくる五條にちょっと返事に戸惑ってしまった。ここで中島の名前を出せば今日一日中彼の機嫌が悪くなってしまう。前例があったので、それだけは避けたい。
「あの、喧嘩した場所で」
「へぇ…でもおばさんが行った時には無かったんだろ?」
純粋に尋ねる五條に悪気は無い。おばさん、というのは涼子さんの事で、あの日の「眼鏡は見つからなかったの」と話す俺達の会話を覚えていたようだ。こういう時に記憶力の良さを見せられても困る。
どう返そうかと思案して言葉に詰まってしまった俺をガン見する彼は、スッとその眉間に一本の縦皺を入れた。
まずい。
「二週間経ったてたのによく見つかったな。お前昨日わざわざ探しに行ったわけ?」
「えっと、」
「うん?」
肯定して「見つけるのに苦労したんだ」とすぐに返せばどんなに良かったか間抜けな返事をしてから気がついた。正直な所、涼子さんから「見つからなかった」と言われてから眼鏡の事は諦めていた。
あの翌日に探しに行きはしたが案の定見つからなかったし、どうせ壊れているはずだと想像していた。ゴミとして捨てられてしまったのだろうと。しかし真実は中島が拾っておいてくれたのであったが。
何かの空気を察してからか五條は執拗にこの話題に食いついてくる。「えっと、」の続きを頬杖をついて待つ彼は視線で促してきた。
「見つけるのに苦労したんだ」
開き直って何時も通りを心掛け先程言おうとしてみた事を真顔で返してみた。が、
「嘘だろ」
あっさりと見破られてしまった。何故バレた。
俺が嘘を付いたことに更にもまして段々と機嫌を悪くしていく。このままでは言っても言わなくても結果は同じだ。
内心焦っていたら不意に顎を掴まれ指先で喉から顎先までつ、と撫でられる。五條は眉根を寄せ、唇をひきつらせて笑った。鳶色の瞳は微塵も笑っていない。
「俺様に隠し事かぁ、ええ?」
「っ、」
そう迫ってくる五條に対して口を開かなければ、結局一日中拗ね(てるようなフリを見せ)て来るので、ここは正直に言うしかあるまい。慌てて昨日合ったことをかい摘まんで説明する。
話し終えるや否や五條は「はあ?」と教室に響きわたるには充分な声量を出した。
一瞬、クラスにいる生徒達の視線が俺達の方へと集まった。頼むからこの手を離してほしい。
何やら固まる五條の手を己の顎から外させる。それと同時に舌打ちが聞こえたが、俺に向けられたものでは無いはずだ。刹那、彼の拳が容赦なく机を叩いた。ドンッと振動が響いてヒヤリと心臓が冷える。
「アイツ……ッ」
瞬く間にいつもの甘いマスクが般若面の様に顰められ、まさに怒り心頭といった感じだ。ギリギリと歯軋りをして己の拳を睨む五條に「ああしまった」と後悔した。
握られた手が咄嗟に俺の肩を掴んで激しく揺さぶる。その力強さにこいつは本当に弱くなったのか、と疑ってしまった。
「あの野郎に二度と近づくんじゃねェぞッ…いいな?」
ドスが効いた声に俺はされるがままに頷いた。
こっちから近づいたんじゃないのになぁ……。
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