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18歳以上ですか?
今はまだにしおりをはさみました!
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今はまだ
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ぽつりと唇から落ちた言葉は周りの音に掻き消されることなく耳へ届いた。五條はぼんやり前を向いたまま俺の方を見ない。
その質問の答えを知らない自分は途方に暮れた。答えられない事を知っているはずの五條はこうやって無意識にいじめているのか、頼っていてくれているのか。否、問い掛けているのは俺ではないのかもしれないが。
「お前はどう思う…」
そのまま返してみたら、「分かんねえ」と幾分かのんびりした口調で即答された。目蓋を伏せた彼は唇だけを動かして言葉を紡ぐ。
「俺さあ…小さい時から力が強かったんだ。それに頑丈だった。だから相手に大怪我させちまう事とかザラだった」
その時遠くでプールの中から俺達の名前をを呼ぶ声が聞こえたが、今は反応できる状況ではない。五條も気にせず先を続ける。
「昔から気に入らない奴らと喧嘩するのは当たり前だったし、自分の身は自分で護るのも当たり前。その気になりゃ誰だって護ることもできた」
徐々に鳶色の瞳が開かれ、過去を懐かしんで切なげに上がった口角が酷く俺を不安にさせた。寂しい横顔は、どこか遠くを見ている。
「いきなり弱くなってこれからどうすりゃいいのか分かんねえ。全部初めてだ。…初めて大怪我をして、初めて人に護られて、俺は」
その続きは、教師の号令と共に高く鳴り響いたホイッスルの音によって掻き消されてしまった。
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