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五條家にしおりをはさみました!
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五條家
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「で、何でお前がここにいるんだ?」
五條のその言葉にお姉さんは答えないで、俺に「龍牙と同じクラスなの?」というような質問を振り続ける。玄関で挨拶をしてから二階にあがり五條の部屋に入れてもらった。
彼は喧嘩の傷の手当てをする為に救急箱を取りに行き、それと入れ替わりに今度はレース編みのポンチョを羽織ったお姉さんが入ってきて隣にちゃっかりと腰をおろすとお菓子をミニテーブルに広げ始めたのだ。そして五條が戻ってきて今に至る。
「兵藤くんだっけ?名前はなんていうの?」
「…直人です」
「んふふ、照れちゃって可愛いわねえ」
「無視すんな!」
ドン、と床に救急箱を叩きつけた五條は眉を顰めてお姉さんに食ってかかる。
「何よう、アタシがどこにいようとアンタには関係ないでしょぉ」
「俺の部屋だ!」
「だったら直人くん連れてアタシの部屋にでも行ってやるわ」
「てめえ…!」
怒りを堪えようと懸命に努力しているようだが、五條はギリギリと拳を握り締めて青筋を浮かべている。そろそろまずいんじゃないのか…。
「あの…」
「大体ねえ、お使いも禄にできないくせに偉そうな口叩いてんじゃないわよ、姉1人受け入れられない程心狭いの?小遣い誰から貰ってるの?アタシだってアンタに言いたいことたくさんあるのよ?シュークリームは潰れてるしジュースは温いしアイスは溶けてるし…」
くどくどと文句を垂らす彼女に漸くストップをかけたら、五條は机に突っ伏して撃沈していた。やはりお姉さんには適わないんだなぁ…と思っていたら、部屋の扉が開いてトレーの上にキッチリ四人分のジュースを乗せて1人の女の子が入ってきた。
「お兄ちゃーん、ジュース持ってきたよー」
「何なんだよ、お前ら一体何なんだよ…」
机に伏したまま五條は愚痴る。入ってきた女の子は妹さんらしい。上の二人と違って真っ黒なストレートの髪を流した彼女はスッと五條とお姉さんの間に座って「こんにちわぁ」とぺこりと頭を下げた。
彼女は兄と姉を足して割ったような面持ちで似てるなあと感嘆してしまう。
一気に人数の増えた部屋に、五條は諦めたのか頭を上げると面倒くさそうに俺に説明をしてくれた。
「そっちが姉貴、俺の6つ上」
「五條茴香です、んふふ」
「その隣が妹。一つ下だ。ウチは三人兄弟でこれ以上増えねーから安心しろ」
「実桜です。よろしくー」
一通り自己紹介をし終えたら妹さんが声量を落とさずに茴香さんに話しかけた。
「やっぱりカッコイイねえ。実桜のクラスにもこんな感じの人いないよぉ」
「ねえ。アタシの職場にも居ないわぁ」
「キャハハ、ランジェリーショップなんだから当たり前じゃん。でも確かにお姉ちゃんのタイプって感じだよねえ」
「そうなのよお、いっそ狙ってみようかしら。どう?」
と言ってニヤニヤと笑いながら俺の手に手を重ねた茴香さんは首を傾げて聞いてくる。まさか本気ではあるまいが…。
「えっ、どうって…」
「いやーん、狼狽えちゃって可愛いー。ウブなのぉー?」
「やっぱりモテますか?」
ケラケラと笑うお姉さんに続いて妹さんが身を乗り出して興味津々に尋ねてくる。
「モテないよ、まず女の子とあまり話さないから…」
「え、何?もしかして童て…」
「お前らなァ……」
大袈裟な音を立てて空になったコップをテーブルに置いた五條はお姉さんの言葉を掻き消して姉妹二人を同時に睨む。五條が更に喋ろうとした時、今度はどこからか流れた着メロで中断される。
ごそごそと携帯を取り出したのは妹さんで、派手に装飾された携帯を開くとジャラりと沢山付いたストラップが鳴る。届いたのはどうやらメールらしい。画面を見た彼女はキャハハと声を上げて笑った。
「敦くんからだー。あれ?お兄ちゃんさっき敦くんと会ってたんじゃん」
「え?アンタ達敦くんと遊んでて遅くなったわけぇ?」
「敦くん」とどこか聞き慣れた名前に俺達二人はぎょっとする。五條の幼なじみである中島とお姉さん達に接点があるのはおかしくないが、敵対視している五條に比べて2人は随分と親しげだ。
実桜さんの携帯を覗き込んだお姉さんは「何よこれ~!」といきなり笑い出す。妹さんもニヤニヤと嬉しそうに五條と俺に携帯を突き出した。
画面には『激写!戦う五條くん~』という文字の下に中島が添付してきたらしい写真が表示してある。画面の中で必死に鉄材を振り回しているのは、紛れもなく先程造船所で戦っていた五條だ。
「何だこれ!いつの間に!」
携帯を取り上げて青ざめながらまじまじと画像を見る五條を横目に、俺は「脅し」だと思った。中島は五條が不良達に散々蹴られていた所も撮って実桜さんに見せれたはずだ。プライドの高い彼にいつでも恥をかかせられると言いたいのだろう。
携帯を返すと苛立ちを含んだ声音で彼女に問い詰め始めた。
「つーか、何でお前が敦のメアド知ってんだよ!」
「えー、同じ学校なんだから当たり前じゃん。メル友だよー?」
「はァ?」
呆れた五條は言葉を失っている。彼女は俺たちと同じ和泉城に通っているのではないのだろうか。勿論、中島は他校の生徒だ。俺の疑問を読み取った五條は苦々しげに解答してくれた。
「こいつ頭いいから清風凛行ってんだ。しかも特待で」
清風凛学園と言えば、この地域で一番の難関校だ。偏差値も進学率も高い、そんな所に特待生で入ってしまうなんて素晴らしい妹さんだ。感心していたら、最後の結論に辿り着く。という事は、その難関校に存在するのも有り得ないだろう不良として席を置く中島という存在に、改めて恐怖感を覚えた。一体どうなってるんだ?
妹さんは指折りしながら楽しそうに話し始める。
「敦くん超優しいよ?何でお兄ちゃんが嫌いになるのか分かんないもん。この前は勉強教えてもらったしー、ケーキも奢ってもらったしー、ミサンガも買ってくれたー」
「…お前らの仲の方が異常だわ。っつーかあの外見と素行で退学させられねェのがおかしい」
「悪いのは髪色だけだもん。授業態度は問題ないし、成績は良いし。外で喧嘩しても頭いいからバレないように上手くやってるんだろうねー。先生も装飾品とか注意してるけど目瞑ってもらってるみたいだよ。校内で敦くん知らない子居ないし。しかもカッコイイから女子にモテてるもん」
「……、あいつ馬鹿じゃないの」
信じられん、と今にも寝込んでしまいそうな顔色で五條はゆるゆると首を振る。俺もその意見に同感だ。外見さえ正せば優等生になるのに、何と勿体ないことだろうか。
不意にふにり、と柔らかいものが腕に当たった感触。何だと横を見れば俺の腕にすがりつくように手を絡めた茴香さんが、んふふーと鼻声で笑っている。
「アタシの母校は和泉城よぉー」
お姉さん、胸、あたってます…。
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